建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
暮らしのものさし
2014年 8月28日

行列のできる賃貸住宅の大家さんの嫌いな言葉は「原状回復」。メゾン青樹・青木純さんが示す暮らしの自由


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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青木さんが“大家”をつとめる練馬区・平和台「青豆ハウス」。住む人育てる人がみんなで育てる共同住宅。

今、あなたが暮らしている住まいは“持ち家”ですか?“賃貸住宅”ですか?賃貸物件だとしたら、あなたは自分らしい暮らしを賃貸住宅でどのくらい実現できていますか?

日本の賃貸住宅の質の低さは先進国でも突出しています。白いビニール製の壁紙や合板の床材、居住スペースに対して割高すぎる家賃、曖昧な契約内容…いわゆる「一般的」な住宅が判を押したように生み出されています。

更に賃貸住宅は退出のとき大家さんから「原状回復」を求められるため、リノベーションはおろか壁に画鋲すら刺せないという窮屈で余白のない住処に。それが現在の日本の賃貸住宅の現状です。

そんな中、「賃貸暮らしをしたい人はきっと自由に楽しみたい。もっと自分らしく。もっと自由に、もっと楽しく。賃貸で自分らしくカスタマイズできたら買わなくたって楽しくないか」と思い、そしてそんな賃貸住宅を実現させた人がいます。

青木純。職業・大家。
大家さんだけど住まい手と一緒にお部屋をつくるひと。大家さんだけど自分の持ち物件の庭にピザ窯をつくるひと。大家さんだけど、「TED×Tokyo」でスピーチし、スタンディングオーベーションを浴びたひと。青木さんの活躍を並べると世間一般でいわれるいわゆる大家さんとはまったくかけ離れた存在のようです。

しかし、青木さんは「大家として当たり前のことをしている」と言います。それは賃貸住宅に起きた革命。青木さんという大家さんを中心に日本の暮らしに素敵なことが起っていることを、知って欲しいと思います。

「TED×Tokyo」でスピーチをした大家さん(!)。

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青木純
1975年東京都豊島区に生まれる。不動産業を経て祖父の代から続くマンション大家業を継ぐ。継いで直ぐ2011年3月に被災するも、暮らす人の気持ちに寄り添った「カスタマイズ賃貸」などの実践により人気物件につくり替え、賃貸住宅の可能性を拡げた。
現在、祖父から受け継いだ「ROYAL ANNEX」と、住む人とつくり上げた新築賃貸、そして現在自身も住まう「青豆ハウス」の“大家”として幅広い分野で活躍中。


大家はそこに住まう人に心を寄せなければならない

青木さんがオーナーをつとめるマンション、東京・東池袋「ROYAL ANNEX」は住まい手が好きな壁紙が選べます。さらにはリノベーションまで相談することができてしまう。そして費用はすべて大家さん負担。自分らしい住まいを住まい手と大家さんが一緒につくれて、住む事ができる。

そんな夢のような賃貸住宅のオーナーである青木さんに、まずは知っているようで知らなかった「大家業界」について伺いました。

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東京・東池袋 ROYAL ANNEXの一室。賃貸物件の概念を覆すようなカラフルな壁紙は一万種類以上の国内外の豊富な壁紙サンプルからあたらしい壁紙を無料で選べる「カスタムメイド賃貸」で住まい手自らが住みたい部屋をつくれる。

まず原状回復というのは、そこで暮らしてきた人の今までの形跡を消してしまうことなんです。ですが、これからの賃貸物件は、今まで住んできた人々の時間を次の人が受け継いで上書きしていって、どんどん価値が高まる暮らしかたをしていったほうがいいんじゃないかな、って僕は思います。

ですが、原状は住まい手が好きに暮らそうが、著名な建築家が建築しようが、賃貸住宅は大家さんの持ち物。大家さんが首を縦に振らなければ、痕跡を残すどころか、痕跡をつけることすら許されません。

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青木さんの住宅で多く採用されている、岡山県・西粟倉村「森の学校」のユカハリ。森の学校の『百年の森林構想』に共感。またユカハリは無垢材の張り床で、タイルのように並べて設置できるので原状回復が必須の賃貸物件にも使用することができる。

多くの大家は住まいを“箱”としかみていません。“住まい”として捉えていない。人が主と書いて住(すまい)なのに、人が不在で考えているから、“箱”に入った人のことなど考えません。

そして現在の日本の賃貸の大家さんと住まい手の距離がとても遠いんです。例えば、住まい手の顔を知っている大家さんはこの日本でどれだけいるのでしょうか。

多くの大家さんは、管理会社や不動産屋っていうプレイヤーから書類一枚もらって、住まい手の年収などスペックだけを見て、貸す相手を決めています。けれど、それが会社の人事採用担当に当てはめたら、エラい職務怠慢です(笑)。

自分の所有物だからこそ、そこに住まう人に心を寄せなければならないけど、それがない。それが今の日本の賃貸住宅の現状を生んでいると思います。

しかし、青木さんは「大家さんは大家さんで悪気はないですよ」と笑う。自分で暮らさない、暮らすつもりがないから、リアリティが持てずそこに暮らすひとの気持ちがただわからないだけなのです。

だから、大家さんが住まい手に歩み寄る第一歩は「自分がそこに暮らしたいか」を考える事ですよね。そこを考えなければ、自分のリアリティが持てないものを人様に提供している違和感はすごくあるわけで。

どんな仕事も人に寄り添って、ホスピタリティやサービスを充実させていくものだけど、大家業界はそこが遅れています。「賃貸だからこれでいいでしょ?」「賃貸だから我慢しなさい」っていう言葉がまかり通ってきたわけです。

住まいというものは、本当は賃貸だろうが分譲だろうが変わらないものであるはずです。

自分の思う通りに暮らしたい、それを実現するには「分譲」を買わなければならない。その背景には、大家と住まい手の関係性、そして昔から脈々と受け継がれる「大家の定義」にあると青木さんは言います。

しかし、その「大家の定義」から大きく逸脱している(すごくいい意味で!)青木さん。人に寄り添う大家さんは、賃貸住まいに夢と希望と勇気を与え、新しい賃貸の形を具現化していきました。

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東京・東池袋「ROYAL ANNEX」は、住まい手と大家さんが話し合いながらリノベーションできるマンション。また住まい手同士が集えるコワーキングスペース「co-ba」もオープン。

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「青豆ハウス」は、賃貸だからこそ、住まいをもっと楽しんでほしいという想いから生まれた、共同住宅。みんなで育てる共同住宅をコンセプトに、建築中から入居を検討している人、ご近所まで一緒に楽しめるイベントを開催するなど、まちの一部として育てている。横並びのメゾネットタイプの8世帯が並ぶコミュニケーションがしやすい建物もポイント。

大家が自分のオーナー物件「青豆ハウス」に暮らして

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青豆ハウスのキッチン。入居予定の住まい手が好きなタイルやキッチンを選んで設置。それでも“賃貸物件”。もちろん8部屋ひとつとして同じ部屋がない。

2014年3月に竣工した東京・平和台の青豆ハウス。長屋のように横に8つの3層トリプレットの8部屋があり、1階にお風呂・トイレ・寝室、2階が玄関・キッチン・ダイニング、3階にリビングルームという間取りです。

入居者は入居前に好きな色で壁を塗り、好きな壁紙を自らの手貼るセルフリノベーションができるなど、新築分譲物件以上に“自分らしさ”を演出できる物件。大家の青木さんは入居者と直接対話をし、入居者を決定。ただ住む場所を提供するだけでなく、コミュニティをつくり、豊かな暮らしを提供しています。

大家兼住まい手の青木さん、青豆での暮らしを“旧くて新しい大家のかたち”だといいます。

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住人が集ってピザパーティを開くのも日常茶飯事。暮らすだけでなく“集う場所”を提供する大家さんでもある。

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住まい手とは一日に2組くらい会います。元々家のつくりがオープンだし植栽したばかりだから、水やりをしているとよく顔を合わせるんです。みんな寝間着でノーメイク。青豆ハウスに住んでいると、自分をつくる暇がない。取り繕えないんです。

普通の日常です。その日常が濃い感じ。例えば、ピザ窯が完成したとき嬉しくて嬉しくて毎日みんなで焼いて食べていたら、ご近所から「さすがに毎日はやめてくれ、いつまでやっているの?」って言われました(笑)。シュンとしちゃうんだけど、「あ、あの時、焼いたピザをお渡しすればよかったね」って、逆に解決法を模索することに盛り上がりました。

普通だったら「じゃあやめよう」ってなるところを「どうやったら続けていけるかな」と、住まい手みんなで、どう解決していこうかと話し合う雰囲気がとてもいい。

こういうご近所トラブルなど、通常は大家さんが一人で背負うんだと思います。でも僕も住まい手だから、大家としての住まいの愚痴をみんなに愚痴れるっていうのがまたいい。普通の大家でいるより更に同じ目線であるという。

人が集わなきゃいけないという原体験

青木さんがオーナーをつとめる二つの物件には共通点があります。それは住人同士が集う場所があるところです。その賃貸らしからぬ素敵な共通点は、青木さんの大家としての原体験が関わっています。

ROYAL ANNEXでは、隅田川の花火大会の時にビアガーデンをやります。屋上で花火を見ながら住人みんなで生ビールを飲むんです。先々代の時代から26年間欠かさず毎年続けています。

共同住宅っていうのは、人が集わなきゃいけないというが想いがあって。人が集まればもっと楽しい、自分の家だけじゃなくて隣近所と話したり、人が来る家っていいなと思っていて。

ROYAL ANNEXの先々代の伯父は人をもてなしたり、楽しませることが大好きでした。よくも26年前から屋上でビアガーデンなんてことをやってたなぁって思います。マンションって個人主義の集まった住まいじゃないですか。屋上なんて大家さんの盆栽がおびたたしいほど置いてあったり(笑)。あの時代からそこを“開いていた”というのはたいしたもんだな、と思います。それが原体験。

今、伯父とおなじようなことをしていて、伯父を知っている関係者たちには「本当にそっくりだ」「同じようなことをしている」って言われます。そうかもしれない。

僕は人が集まって笑顔でいることが一番幸せなので。

大家とまちづくり

「大家さんの仕事は街の採用担当」という青木さん。最近は、株式会社リノベリング、株式会社都電家守舎など、まちづくりの仕事をはじめました。ROYAL ANNEX、青豆ハウスを経て、「家の暮らしも楽しいから、まわりの環境がよくなったらもっと楽しくなる」と感じた大家さんは街に飛び出していきます。

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リノベーションスクールは、2011年8月から半年に一度のペースで北九州市で開催されてきた、リノベーションを通じた都市再生手法を学び、体験する場。現在は、不動産オーナーのための講座や、商店街での新たなビジネスオーナー発掘の関連イベントに加えて、「リノベ祭り」と銘打ったフェスティバルも開催。

大家としては、自分の物件がある街を住みたくなる街にしたいし、ずっと長く住んでいたいなぁと思います。

住宅から街まで飛び出しちゃったほうがもっと楽しい。ここだけで完結するのではなくて、扉一つあけただけで住人以外のまちの人が入って来てくれることが楽しいし。楽しいから出ていけるようになった。そうしたら、豊島区長と会っていた(笑)。

ただ僕はまちづくり、ものづくりをしているという感覚はあまりないんです。自分が楽しいんです。人の和が広がって行く感じが。楽しいから集まってくる、楽しいから広がっていくし、結果自分も楽しい。その連続です。楽しいこと以外はやっちゃいけないと思っています。

そして人の期待に応えよう、って気持ちを大事にしています。応えよう応えようと思った先に道が見える。だからやりすぎちゃうこともあるんですけど(笑)。

大家だらけになるこれからの日本。「愛され大家」になる秘訣は?

団塊の世代が第二世代に自分が建てた家を受け継ぐ時代が到来しています。賃貸をする側からされる側へシフトしていくのも目前。日本にこれから人口減や少子化と、いまだかつてない時代がやってきます。

それに伴い、家を持つ人が爆発的に増え、日本国民総大家化するのも現実味を帯びてきています。借りたい人より貸したい人が多くなり、「貸せない大家」は「空き家のオーナー」。それは、今現在も議論される空き家問題につながっていきます。

新たな賃貸住宅問題に直面しつつあるいま、人気賃貸物件のオーナーとしてめくるめく体験をしている青木さんに、「愛され大家」になる秘訣を伺います。

親からの遺産などをなんとなく受け継いで、管理会社に任せっきりにしている“いいなり大家”が増えています。そうして、またひとつまたひとつと寂しい賃貸住宅が増えている。

“いいなり大家”にならないコツは、とにかく入居者と会う事です。会わないから寄り添えない。さらに会わなければまったく知らない人なわけだから「何をされるかわからない」という恐怖心が生まれる。まず会おうよ、と。書類一枚、経歴だけで人を雇うなんてことはないでしょう?

管理会社に言えば、会わせてもらえます。そしていい管理会社に出会うことです。みんな“いいなり大家”から脱して欲しい。そして、家を持った時点で家のオーナー=大家さんになったことを自覚する。

僕はよく、カスタムメイド賃貸の壁紙を大家負担で直すときに、「よく大家負担でなおしますね」って言われるんですけど、大家の持ち物を大家が貸すのに大家が直すのは当たり前じゃないかと。それを住まい手に直させる、原状回復させるっていうのはおかしくないかと。

要は、面倒くさがらず人間関係を築くこと。これから大家だらけになる日本で、大事になっていくのはコミュニケーションです。そしてまた青木さんは自分のオーナー物件を「入居者のものでも、大家のものでもない。家は街のものである」と言います。

逆に僕はROYAL ANNEXが自分のものだと思った事はない。街の採用担当として、街に人を呼び込む箱だと思っているから。

豊島区長に「街に人を呼べるのは、大家である僕だけです」って言いました。不動産オーナーは街の担当、土地に人を滞在させることができるから。真面目に入居者と接して選ばないといけない。

最終的には住まい手が大家になるのが街にとって一番面白いと思う。本当の意味で街に開いていくという意味で、入居者ひとりひとりがいつかその街の大家になったら、それは強いよね。

「大家さん」という、人が住まう処の主が「いい暮らしをしてほしい」という意識を持つ事によって、人の暮らしが地域を変え、さらに社会を変える力になり得る。

大家さん業界の始皇帝として、これからも賃貸業界そして暮らしをリードしていく青木さん、今後の展望は“深く掘り下げること”。

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ROYAL ANNEX co-ba

つくって終わりじゃないから、ようやくスタートを切れたというのが実感としてあります。ROYAL ANNEXを、青豆を、co-baをもっと楽しくしたい。まっすぐ深く掘り下げたいです。

ただ、待っている人のことを考えると新しく物件を買った方がいいのかな、って思うこともありますが実際はあまり拡げるつもりはありません。というのは、住まいを提供する人間というのは、人々の機微に深く入り込まなければいけない。

横に拡げていくんじゃなくて、その場所を深めていく。それが本来あるべき大家さんの姿じゃないかと。拡げていくのは投資家。僕はあくまで大家さんなんです。

「大家さん」。
家を持たない人にとっても、家を持つひとにとっても、暮らしを営む人すべてが関わるであろう存在。

大家さんに「こんな暮らしがしたい」「あんなものに囲まれて暮らしたい」と暮らしの自由を求めるのは、他でもないあなた自身。「賃貸だから」という、つまらない理由で暮らしの自由を諦めるのはもったいないと思いませんか?

あなたの住む街は「青木純」はいないかもしれない。
しかし、青木さんという大家さんは「素敵な暮らし」ではなく、「素敵な暮らしを諦めなくていい場所」を提供してくれたのです。

理想の暮らしを実現するためには、自分の中で確固たる「理想の暮らし」を思い描く事。そして、大家さんと住み手は家賃だけで繋がった関係ではなく、もっと暮らしの恊働者であるべきではないかな、と思います。

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