車通りの多い東側の 県道と、幅の狭い北側の道路に敷地は面している。けれど、気心が知れた近隣の人たちが自然と敷地を訪れる地域だったから、敷地の全方位に開いたときの効果に期待するより、将来的に庭とすることが想定されていた敷地の南側を最大限に信頼して、そちらに開いて 自然に人が集まるような空間的設えをつくることとした。南傾斜の屋根は、長野の雪を溶かすためと、将来ソーラーパネルを取り付ける場合の最適角度でもある。 建主からは「カフェのような」空間が望まれた。そこに居るおのおのの目的やコー ヒーを飲み干すタイミングは違えど、同じ空間を共有 してくつろいでいる。それぞれがそれぞれのペースで空間に出入りして、お互い少し離れた場所に居ることは感じながらも強い干渉をしないで済む距離感である。 大地から斜めに延びた登り梁と三角形壁のつくるトラス状の架構が短手方向の水平力に、スチールブレースが長手方向の水平力に抵抗している。建物の外に水平抵抗要素を追い出したことで、内部の壁を減らし長大なワンルー ム的空間を実現している。また、1,2 階ともに階高を抑 え、高さが 5m を下回るヴォリュームとしている。これだけ空間が長いと、日常の事柄やちょっといつもと違っ た事柄が、いろんなところでポツポツと起こる。 南に面したおよそ 22m 幅のテラスでは、夏には梁間に簾をかけたり網を張ってヘチマを育てたり、秋には柿やハンモッ クを吊るしたりと、室内と連続したさまざまな活動が行われる。そうした事柄は個人と家族の記憶に建築空間とともに刻まれてゆく。そんな穏やかな刻々とした時間の流れに空間が沿うような設計にしたいと思った。日々の思い出が記された夏休みの日記帳のような空間である。
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