「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。
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(写真:庄司直人)
ガーデニングや家庭菜園などで緑にふれたいと思っても、都心ではなかなかスペースがとれないもの。一方、自宅の庭を手入れできずに困っている高齢者の庭も増えているといわれます。こうした庭をご近所さんとマッチングして、コミュニティガーデンとして活用する取り組みが始まっています。
もともとコミュニティガーデンとは、アメリカで始まったもので、都市の空き地がゴミ溜めや犯罪の巣窟にならないよう庭や公園にしたところ、庶民の憩いの場になったという草の根的な活動です。
日本ではまだまだ行政や企業主導のものが多いなか、ひとりの造園家によって始まった活動が、ご近所さんに広まりつつあると聞いて行ってきました。
マンション丸ごとを、コミュニティガーデンの拠点に
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世田谷区砧にある公団風の古いマンション
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入り口の黒板にはチョークで「たぬき村」の文字。
季節は4月。築37年のマンションの壁にはつる草がつたい、植栽にはブラックベリーなどの植物がいきおいよく伸びています。これが、コミュニティガーデン「たぬき村」の拠点、秘密基地のような雰囲気です。
マンションの隣では、その日集まったご近所さんたちがさっそく庭づくりを始めていました。土の香りいっぱいの庭は、芽吹いたばかりの新緑でまばゆいほど。環状八号線からほんの数メートルの場所とは思えない緑のオアシスです。
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「つながる庭プロジェクト」第3回目のワークショップの日。
たぬき村では、マンションの住人や近隣の人々が集い、このマンションを拠点に井戸堀りやしいたけ栽培、ツリーハウスづくりなどを行ってきました。マンション内の共有ルームでは、定期的に染めや味噌づくりなどのワークショップが行われ、年に数回は「たぬき祭り」や、マルシェ「たぬき市」など大きめのイベントも開催しています。
主催者の矢田陽介さんも、ここの住人。一見とても物静かな方ですが、その実、驚くほどの行動派。たぬき村を始めた理由を、こう話してくれました。
矢田さん もともとパーマカルチャーを学んでいたこともあって、都心で持続可能な暮らしを実践できる場が欲しかったんです。
たとえばコンポストのつくり方を学んでも、都市の自宅に戻るとなかなかできないですよね。それに、まず身近に居る人たちとつながることが一番大事だと思ったんです。それぞれが得意なことをして助け合うことだったり、小さな生業(なりわい)にすることだったり。
僕は造園家なので、いつかコミュニティガーデンをつくりたいと思っていました。ちょうど独立して、事務所やサンプルガーデンをつくれる場所を探していたときに、この物件と出会ったんです。
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造園家でたぬき村代表の矢田陽介さん
もともとこのマンションにはオーナーの友人が何世帯か住んでいて、コミュニティのベースとなる人間関係がありました。矢田さんは、荒れていたマンション周囲をきれいにすることを約束して部屋を借り、「たぬき村」の事務所と自分のオフィスを兼ねることに。住まいもこのマンションに移します。
2011年4月、飲み友だちとなった住人や、パーマカルチャー塾の仲間とともに、本格的に「たぬき村」の活動をスタート。その後、世代の違う“リアルなご近所さん”をも巻き込んでいきます。
たぬき村ってこんなところ
「たぬき村」のマンションには全部で12室あり、最上階、両端が住民共有のコモンルームになっています。
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コモンルームの一つは矢田さんの事務所を兼ねた「たぬき村」のオフィス。メンバーとの打ち合せはここで行われます。
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もう一つの共有スペースは会員が自由にワークショップやイベントを行う場所。草木染めや植物療法など、それぞれが得意なことを発信する場で、毎週のように誰かが何かを行っている。
庭づくりの活動では、マンションの植栽に野菜を植えたり、椎茸を栽培したり。隣の家の庭で、井戸堀りのワークショップなども行われました。
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マンションの裏手には、2年前に植えた椎茸がぎっしり。
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矢田さんが言い出しっぺでつくったツリーハウスも。(撮影時には、残念ながら最近の強風で木が折れてしまっていました)
ご近所さんに参加してほしい
活動を進めるうちに、矢田さんは、若い人だけで集うのではなく、世代の違う隣近所の人たちにも参加してほしいと考えるようになります。
矢田さん マンションの住人とパーマカルチャー塾の仲間で始めたので、イベントのたびに遠方から来ている人も多かったんです。
その仲間も仕事が忙しいと参加できなくなるし、僕としては向かいに住んでいる年配の方や、隣の奥さんなど、リアルなご近所さんに参加してほしかった。その方が、より生活に根ざしたコミュニティになると思ったからです。
それまで、若い人が夜遅くまで騒いでいる、などあまり印象が良くなかったこのマンションでしたが、矢田さんが土を堀り起こしていると「何やってるの?」と近隣の奥さんが声をかけてくれたり、“ご自由にどうぞ”と置いておいた花を「この前お花もらったわよ」と伝えてくれる方も現れました。
でも“コミュニティガーデン”と説明しても、なかなか理解してもらいにくい。そこで矢田さんは、おいしいものを食べたり、みんなで楽しむお祭りを行ってはどうかと考えます。
矢田さん お祭りをやるので手伝ってもらえませんか、と声をかけて、当日来てもらうようにしたんです。
一度来てもらえたらその先は一気にスムーズで、毎月一度「たぬき寄り合い」といって、近隣ミーティングをやるまでになりました。まぁ共有ルームでお酒を飲むだけなんですけど(笑)。近所の人も、新しいマンションの人も寄り合いに顔を出してくれるようになりました。
昨年11月に行われた2回めの「たぬき祭り」では、近所のおじいさんが張り切って餅つきを子どもたちに教えている姿や、年配の奥さんたちが若い女性に苔玉づくりを教えている光景も見られ。年齢差を超えてご近所さんが集まる、素敵な雰囲気のよいお祭りが行われています。
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昨年11月に行われた「たぬき祭り」。まずはお米を炊くところから。
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近所の奥さんたちが若い女性に苔玉づくりを教えます。
放置されていた庭をコミュニティガーデンに〜「つながる庭プロジェクト」
こうして、ご近所さんと共にコミュニティづくりを少しずつ進めてきた矢田さんですが、今年は改めて、庭づくりを集中して進めています。マンションの隣家に、オーナーの手入れが行きわたらない、コミュニティガーデンにはもってこいの庭があり、設計図をひいてどんな素敵な庭にしていくのかを奥さんに説明したところ、一も二もなくOKしてくれました。
さっそく今年(2014年)3月より、誰でも参加できる庭づくりの活動をスタートしています。
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ほどよく自然な状態が残っている庭は、土もふかふか。
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お隣の庭をコミュニティガーデンにするにあたってひいた図面
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4月の第2回目の活動日には、6名が参加。そのうち4人が、歩いて数分の場所に住むご近所さん。
矢田さん 野菜を育てる畑や農園ではなくて、大人が集って、ゆっくり憩えるような気持のよい庭にしたいんです。井戸やちょっとした池もありますし、レンガ造りのかまどもつくる予定です。
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この井戸も、以前ワークショップ形式でみんなで掘ったもの。ホタルも放して、ホタルの居る庭にしたいと夢は広がります。
また、横浜市港区日吉にある植物療法の学校「ヴィヴォの家」と連携した「つながる庭プロジェクト」も始めました。矢田さんとともに、このプロジェクトを進める稲葉桂子さんは、こう話します。
稲葉さん この庭で育てたハーブを使って草木染めをしたり、植物療法を学ぶなど、草木を暮らしのなかで役立てることも提案できたらと考えているんです。ドクダミを使って蒸留水をつくったり、もうじき咲くハルジオンで草木染めをするなど、日常に生かせる使い方を学びます。
暮らしのものさしは、仕事と暮らしが一緒になること
最後に、矢田さんがいま暮らしのなかで大切にしていることは何でしょう?と伺うと。
矢田さん 暮らしと仕事がもっと一体になればいいなと思っています。
いま私がやっている市民活動のようなことは、それだけでは生活できないので、時間がある人しか関われません。でも生業と日常生活が密接に関っていれば、もっと早いスピードでいろんなことが変わっていくと思うんです。より多くの人が、小さくても自分の得意なことをコミュニティのなかで生業にしていければ、日常と仕事を別に考えなくて済みます。
得意なことがなくても、例えば子どもをみていてほしいなど、暮らしているなかで小さなニーズってたくさんあると思うんです。たぬき村はそのトライアルの場にもしていきたい。
僕は造園家なので、緑を介して近所の人が集える場をたくさんつくれたらいいなと思っています。たぬき村で試したことを、他の場でも役立てることが、僕の夢ですね。
本業のガーデナーという仕事を活かして、都会の人たちが憩える場やつながるお手伝いをすること。そうしてつくった場が、参加者の小さなナリワイの場になれば理想的、と話します。
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都心にコミュニティガーデンが増えたら嬉しい、と話す矢田さん。
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矢田さんがアドバイザーとなり、ハーブを中心に、それぞれ植えたいものを植えます。
都会では、空き地はすぐに駐車場かマンションになってしまうし、高齢化で庭の手入れが難しいお宅も増えています。持ち主が庭を提供して、近所のみんなが集う場になれば、これとない憩いの場になりそう。知らない人が自宅の庭に入るのは不安でも、顔見知りのご近所さんなら安心です。
都心にコミュニティガーデンをつくるという視点を活かして、あなたもご近所さんと始めてみてはいかがでしょう?