対象敷地は愛知県刈谷市に位置し、周辺には大手自動車メーカーの関連会社が集結していることにより、多くの賃貸住宅が乱立している。その一方で、生産緑地法により開発から免れた緑地や畑も多く残る。施主は長年この地域に暮らし、古くから本敷地やそれ以外の土地も多く所有するいわゆる地主であった。
地方で賃貸住宅を新築する場合、必ず駐車場が必要になる。世帯収入や結婚率の高い本敷地周辺では、間取りによって異なるが各戸2台が一般的である。周辺の賃貸住宅では、まず前面道路沿いに大きなアスファルト駐車場を計画し、必然的に導き出された残りの場所に建物をつくる方法をとっていた。このような建ち方により、隣接する緑地や畑には大きな影が落ち、そこで育まれる人間も含めた生態系にも負であるように感じていた。本計画では、生産緑地が点在する地方都市の中で賃貸住宅を建築するにあたり、生態系の連続性を保ち、環境へのインパクトを小さく留める建築方法を提案する。
具体的には、まず求められた賃貸住宅の各必要諸室を室単位にばらばらと分解した。それらを宙に浮かせながら再結合することで、地盤面を開放し、隣接する生産緑地から地続きの生態系を確保することを試みた。宙に浮かせた各諸室は、1戸では自立できないが、各戸の階段室を中心にそれぞれの住戸同士が支えあう構造とすることで、極力地面に落ちる柱を少なくし、その柱も外構の植栽の幹と同程度まで細くした。植物の背が高くなるにつれ幹が太くなるように、条件に応じて最適な柱径を選択するという生物的合理性のもと計画している。全体は同一平面の4戸を回転・反転し、つなぎ合わせることで、経済性と合理性を高めているが、日照条件や周辺環境をもとに配置計画を行った。全戸の屋根と壁を同材の仕上げで設えることで、樹葉が重なり合いながら1つの森を形成するようにこの建築群を計画している。凹凸形状によって住まい手の生活が植栽や動物の生態系と等価に混ざり合い、周辺の生態系へ溶け込んでいく。こうした人間も含めた生態系への操作が、ひいては隣戸との騒音問題解決や屋根付き駐車場の確保など、賃貸住宅としての価値向上につながっている。
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