賃貸で住んでいた団地を購入。住み慣れた間取りの不要な壁や欄間を取り除き、暮らしの場面に応じて、木製サッシの引き戸で仕切るプランにリノベーション。
text_Yasuko Murata photograph_Kai Nakamura
富士見台の家
・東京都国立市
〈設計〉小阿瀬直建築設計事務所 [SNARK]
・住人データ
根本さんご家族
真路さん(32歳) グラフィックデザイナー
多恵子さん(38歳) 印刷会社勤務
広い敷地内に南向きにゆったりと並ぶレトロな建物。年月を経て大きく育った樹木や植栽が包み込む穏やかな雰囲気は、古い団地ならではの贅沢な佇まいだ。根本真路さん、多恵子さんご夫妻は、そんな環境の豊かさに惹かれ、5年前からこの団地に賃貸で住んでいた。
「住み心地がよく、すごく気に入っていたので、ずっとここに居たいと思っていたんです」(真路さん)
同じ団地内の分譲の物件で、1階角部屋が売りに出たのを知り、購入に踏み切ったご夫妻。もっと自分たち好みの家にできたらと、リノベーションの設計をスタートさせた。
設計は、真路さんの知人である建築家の小阿瀬直さんに依頼。
「根本さんの以前の住まいは、古い団地の空間にイギリスのアンティーク家具などを上手く合わせていて、バランスが取れていました。そのイメージを引き継ぎたいと思ったので、既存のディテールを残しつつ、無駄をそぎ落として、お二人が好むシンプルで機能的な住まいをつくろうと考えました」
既存の間取りは慣れ親しんだ以前の部屋と同じだった。そのため、居室や水まわりの大幅な移動はせず、開放感を妨げ、不要だと感じていた壁や欄間を取り除き、馴染みのある生活スタイルや動線をキープした。
LDK、寝室、廊下は、必要に応じて引き戸で独立させたり、つなげたりできるように工夫している。さらに、LDKと寝室を仕切る引き戸は、ラワン合板の木枠にガラスをはめ込み、視覚的な広がりも持たせた。
また、素材や仕上げを厳選することでも、各部屋に連続性をもたらしている。床は幅広のナラの無垢材で統一し、レールやドアノブなどのパーツには真鍮を使い、意匠的なアクセントに。壁は長押や廻り縁などの痕跡を残しながら、塗装してすっきりとした印象にまとめた。
「50㎡強のコンパクトな空間なので、収納を少なくしてもらい、持ちものを必要最小限にしたんです。その結果、家事や手入れがスムーズで、さらに居心地がよくなりました」(多恵子さん)
暮らす機能を追求して建てられた団地の本質的な魅力、時代を経ても変わらないよさを残し、現在のお二人の好みや生活に合わせアレンジした住まい。その空間は、リノベーションだからこそ生まれた、安らぎのある空気感に満ちている。
〈物件名〉富士見台の家〈所在地〉東京都国立市〈居住者構成〉夫婦〈建物規模〉地上5階建て(1階部分)〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈建物竣工年〉1965年〈専有面積〉50.85㎡〈バルコニー面積〉4.07㎡〈設計〉小阿瀬直建築設計事務所[SNARK]〈施工〉TANK〈設計期間〉6ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈竣工〉2012年〈総工費〉700万円
Sunao Koase
小阿瀬 直 1981年 群馬生まれ、仙台育ち。2008年 小阿瀬直建築設計事務所[SNARK]設立。09 年 群馬県中央児童相談所設計提案競技 優秀賞。11年 前橋市美術館プロポーザル 佳作。
小阿瀬直建築設計事務所[SNARK]
群馬県高崎市田町53・2 2F
TEL 027・384・2268
info@su-70.jp
www.su-70.jp
※この記事はLiVES2013年4月号に掲載されたものを転載しています。