町の風情をわずかに残す小さな商店街に面した住宅の改修である。大通りに面した側には1階に商店、2,3階に住宅があり、階段を挟んで倉庫があった。しかしあまり効率的に機能していない倉庫部分に目を付けた建主の、娘家族が居住することとし、改修計画が始まった。鉄骨3階建(中2階あり)の中2階、2階、3階を事務所兼住宅として計画する。既存の鉄骨の構造体、階段、一部の外壁を残し、中2階の出入口を階段の踊場から取り、2階への階段を撤去し、事務所として独立した空間を確保した。事務所の内装はローコストの条件もあるが、私生活から切り離す事を考え、住宅部分と全く違うOSB貼りとし、天井もあらわしとして天井高をぎりぎり確保した。撤去した階段部分はそのまま吹き抜けとし、天井高の低さと日当たりの悪さを補う役目を果たしている。2階の玄関を入ると正面に、この家の『床の間』といえる場を配し、客人を迎える。また、そこを分岐点にしてプライベート空間とパブリック空間とに分けている。プライベート空間は間接照明のみの薄暗い廊下から始まり、その左側にはシューズボックスがあり、右にはグレイッシュブルーの3枚の引戸がある。それぞれ、個室、トイレ、洗面脱衣室への入口である。そして廊下の突き当たりの扉はもう一つの個室へと繋がる。この階は個人的な作業スペースのみを必要最小限の広さでレイアウトしている。玄関右手にあるシナベニヤの階段を上がると視界が一気に広がり、リビングダイニングキッチンの一室空間になる。東側は一面の壁面収納となり、業務用のガスレンジもその一部のようにレイアウトされる。キッチン天板のステンレスは4mmの厚みを見せ素材感を出すとともに、その仕上げをバイブレーション仕上げとする事により、ステンレスの印象を軟らかくし、インテリアへとなじませている。また、冷蔵庫や洗濯機、家電用品など雑多なものを奥にレイアウトし、ロールスクリーンで隠すことが出来る。その『納戸』を通って、屋上へと上がる階段がある。このように、事務所、プライベート、パブリックと生活の中の機能により、フロアを切り替えるレイアウトは、生活にメリハリを付け、より機能的になるような配慮からである。
第三回「TILE DESIGN CONTEST」 (2002 1等賞)
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