計画地は大阪府内の旧家で、母屋の建て替え計画である。
門や蔵を備えた敷地は300坪ほどあり、戦前から残る正門は昭和初期の佇まいを残す。
広い敷地を十分に活かすため、「H型プラン」を提案した。
北棟と南棟が距離をとり、動線部のみで繋がるこのプランなら、全ての部屋に光と風を届けることができる。
北棟には水廻りや来客スペースを、南棟には広い庭とつながるプラベートな空間を配置した。中央にLDK、左右に主寝室と子供部屋という並びだ。
くびれた部分にあるエントランスは、すぐ前まで車で寄り付け、かつ明るい。
コンクリート打ち放しの美しさを最大に引き出すよう、必要以上に手数を掛けないようにしている。
形態こそ違え、漆喰や瓦といった素材の美しさを引き出す日本家屋と、本質的には同じだと思う。
元の母屋は日本家屋だったが、軒の深さは踏襲した。それが夏の日を射防ぎ、風景を切り取ってくれるだろう。
庭にもほぼ手をつけていない。先祖に感謝し、住み継いできた環境と共に生きる。そんな、健気な住宅を目指したのだ。
旧家と言われるご家族の住宅を何件か設計させて貰ったが、根底に流れるのは「住み継ぐ」という意識だと感じる。
ここで暮らすのは、ご夫妻と小さなお子さんだが、二代、三代と暮らして貰えるだろうか。
頑丈な躯体と、単純明快なプランは、100年という時間を見据えたものだ。