和歌山市の中心部から南東へ約4km、中央に公道を挟む南北の敷地にリネン工場とその経営者の住まいが混在している。私が計画を担当した範囲は、すでに新しく完成していた住まいを取り囲む外構計画と、住まいの東側に必要とされていながらまだ方針が決定していなかった収蔵庫のデザインである。小さな蔵(収蔵庫)はその全体計画の一部である。
小さな蔵の用地は、工場を含め敷地全体の中央にあり、既存母屋と工場倉庫に挟まれた台形の土地形状をもち、北西を公道に接している。配置計画にあたり玄関・浴室・台所といった性質の異なる部屋が並ぶ壁蔓に接して小さな蔵が建つことを考慮し、母屋と適度な距離を設け木製ルーバーを帳して柔らかい光が注ぐ明るい半外部空間をしつらえた。さらに硝子スクリーンで分割し、それぞれの機能に適った場所を確保した。
小さな蔵には、土地の制約条件の中で最大の広さを確保しつつ、母家の玄関への導入路を豊かに演出するかたちが求められた。その結旺、建物はアイロンのコテあるいはボートに似た平蔓形をもつことになった。断蔓形状を模索するうちに、平蔓形からおのずと導かれた船底型の屋根がこの建物に最適であると判断した。この屋根は鉄骨の束に支えられ、壁からせり上がり浮いたように見える。構造用木材は壁、屋根は共に基本寸法が55×170mmの断蔓を持つ部材で構成され、一部屋根の曲蔓部分に軒先を同寸法とする扇型の部材を使用し合計2種類の部材のみで構築されている。外壁は光沢の無い墨色の亜鉛合金板で覆われ、その姿は工場建築あるいは昔ながらの蔵を連想させるであろう。
当初、「もの」を収納する以外に特定の目的を与えられていなかった建物ではあるが、目に見えるものを越え、住まい手の記憶を集積する場所として、また経営者である建主の多忙な生活の中で心休まる隠れ家として、さまざまに活用されることを想定して計画されている。この小さな建物が、母屋の顔になり、工場を含めた敷地全体の要として、この家の繁栄を牽引する小舟のようにあり続けることを願っている。
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