都内でも人気上位にランキングされる商店街にほど近い敷地での建築である。駅からは商店街を通り徒歩5分と賃貸集合住宅の条件としては良い位置であり、敷地は2面が道路(6m・8m幅員)に接している。
ここに38世帯のNEST(巣)を計画した。日本語で『巣』のイメージはあまり良くない。調べてみると(1:鳥・獣・虫などのすむ所。「ネズミの―」「小鳥の―」2:人の住む所。すみか。「愛の―」3:よくない仲間が寄り集まる場所。「悪党の―」4:クモが獲物を捕まえるために張る網。)とある。何か隠れている様なイメージだ。しかし、良く考えてみると住むという行為自体、隠れる事でもあるのではないか。隠れる事により人は安心するのではないかと、考えクライアントに提案した。
クライアントの反応は当初、あまり良いものでは無かったが、シンプルな建築計画でローコストで有る事、外観は画一的であるが各住戸の仕上げ材料が住室ごと分けられているなど、提案のこだわり部分で理解が得れて、コンセプトの『NEST』にも共感して戴けた。
賃貸集合住宅は最近でこそ、多種多様な建築が見られるが基本、メンテナンスがし易い、賃貸経営重視の建築の方が圧倒的に多く見られる。需要と供給原理に重きを置き、本来、住まう人を考える事を放棄してしまった建物がある。
賃貸という特性により多少、最大公約数を考えるのは必要と感じているが、住まう人が豊かに過ごせる空間をもう少し考えてみたいと感じている。
安易に建物形状を複雑にして個性を持たせる事より、今回は住室内部の空間のしつらいに自分の『巣』と感じれる個性を持たせる事とした。落ち着いたカリンの床材を使用した部屋、明るく優しいイメージのクリアバーチの壁面がある部屋、重厚感あふれるウォールナット床材を使用した部屋などなど、インテリアの主要なアクセントを決めて個性的に設計した。個性的と言っても奇をてらうのではなく、木目、タイル形状やコンクリート打ち放しなど不自然でないコーディネイトを施している。
また部屋の形状は賃貸市場で嫌悪感が生じない様、矩形にプランニングされており、既製の家具レイアウトも容易に出来るように配慮している。各住室の住まい手がもっと個性的に賃貸の住まいを楽しんでもらえる事を考えた建築である。
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