「あの~。実家にプレハブの駐車場があって、その上に美容院作れる?」突然の電話である。
知り合いであった施主は松本市の市街で、すでに美容院を営んでおり、その店舗を始める時にもプランニングをした経緯があった。「駐車場の上?」突然の内容にそう答えるのが精いっぱいである。「今度、店を地元に移そうと考えていて土地からだと費用が掛かり過ぎるなと思って、どう?」どう?と言われても・・・
「今度、話を聞くよっ」と返答したところから、このプロジェクトは始まった。
私と同い年の施主は自己所有で美容院をやるには、そろそろ年齢的に良い時期ではないかと考えていたらしい。そこで自宅近くの土地を探していたが希望に合う場所は見つからなかったため実家の土地に建てようと決意していた。すでにあるプレハブ駐車場の上に店舗を作るには無理があったため、法制限等が許す限りの増築でプランニングを試みた。予想以上に諸条件が厳しかったが施主と私が納得できる案までたどり着く。実はこの敷地の用途地域は第一種低層住居専用地域であり店舗面積に制限がある事と車庫は無くせない条件があり、2階に美容院を配置するしか答えはなかった。路面店は1階に配置した方が一般的に集客力を持つが、今回は2階配置による店舗のメリットを追求している。それに限られた店舗面積と車の往来が激しい前面道路との折り合い。
これらの条件を克服する為にテラスデッキを設け、屋外空間を積極的に取り込む事にした。そのテラスを囲う手摺は程よく道路から遮られる事を狙っており、また曲面形状にすることにより伸びやかな空間となり狭さを感じさせない様にしている。空や山々の自然は2階領域に取り込むが、田園と古い町並みによる雑多な沿道風景からは切り離された独立性の高い空間にしてサロンの個性を創出しやすい配慮をした。さらに地域特性と立地を考えテラスデッキ屋根には孔の様な欠けを設けている。安曇野は西に北アルプスがあり、日が暮れるのが早いので少しでも長い時間心地よい光を店舗とテラスに導かせる事と敷地が交差点に面している利点を考え、人が2階へ上がりたくなる様なシチュエーションを考えたからである。この孔のバランスには苦労した。模型を作って店舗の中への影響と外部からの見え方、双方からシュミレーションを行い最後は模型のスチレンボードを直感で切り抜いた形状がベースとなり決定されている。
小さな町の小さな美容院。一人の美容師の「想い思い憶い」を大切に考え、形にした建物である。
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