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隠居を希望する建主のための築45年になる木造家屋の改修。敷地は東京都内の木造密集地域に位置し、周囲を家屋に囲まれている。路地に接続する奥行6mのアプローチを経て内部へアクセスする。 | Casa O
Casa O
髙橋一平建築事務所
隠居を希望する建主のための築45年になる木造家屋の改修。敷地は東京都内の木造密集地域に位置し、周囲を家屋に囲まれている。路地に接続する奥行6mのアプローチを経て内部へアクセスする。 | Casa O
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東京都内の木造密集地に建つ、築45年になる戸建住宅のリノベーション。
以下、新建築住宅特集2014年12月号寄稿の抜粋。

この家は東京の木造家屋が密集する地域に建つ。商店街から入り込んだ、近隣同士でなければ誰も知り得ないほど奥まった特別な場所に隠れて建っている。周りに隙間無く建ち並ぶ古い家屋の多くは空き家に見えるが、突然聞こえる物音によって隣人の存在に気付くほど静かで風化したこの環境は、まるで原生林のようだと思った。
建主は、社会生活を引退しあらゆる干渉を拒みながらも、生活に便利な都市での隠居を希望した。ある時この二重性を望む彼らには打ってつけのぼろぼろの家を見つけ、私はこの家を建て替えず改修して住むことを提案した。すなわち、築45年になる家屋の古さも周りと同じ質をもっているのであって、この家の全てをつくり替えて住環境を一旦断絶させてしまうよりも、東京に広がる木造家屋群という匿名性の一部であり続け、この独特な環境に身を包まれて住むことのほうが隠居と呼ぶにふさわしいと考えたからである。
そういう訳で、家のどこにいても周りの環境が間近に感じられるほど開放的なつくりにした。家の中を仕切り空間を作っていくのではなく、立地環境をそのまま住環境として扱った。隣家の窓と対面しないようなるべく大きな窓を開けると、家屋の群れの後ろ姿が一望でき、風通しが良く、建て込んだ周囲の環境と住環境が一体化し始める。上下階は大きな吹抜けで繋いだ。外的要因から決まった開口部の配置に伴い、小さな家の中にもさまざまな環境が生まれたので、生活に必要なものを適所に配した。路地を見渡しながら家事ができるアイランド式キッチン、風が抜ける場所にアイランド式バスタブ、物陰にシャワーブース、隣家の壁をゆっくりと辿る緩い階段、暗がりには収納を、という具合に。方法的というより、行動的に設計していった。生活の実体験は平面図に記されるよりも立体的で流動的で、環境を魚のような気分で泳ぐ感覚に近い。新たに加わるものは、古さと並存させていく処理とした。その方が新しい家の中にも、その成り立ちや歴史が目に見える形で蓄積されていくからだ。たとえば、補強梁は既存の木造架構に添え、窓枠は古い柱が露出するよう外付けとした。これまで私たちは街の表側の風景や、中庭や理想的な空間といった幻想ばかり見つめながら暮らしてきた。しかし、それらがいよいよ鬱陶しく感じた時、漫然と建ち並ぶ家並みの無頓着な後ろ姿に一度身を委ねると心地が良い。家屋の群れを原生林として評価した時、大自然の別荘で過ごす夏の日のようにリアルで、解放的な第二の日常が生まれた。こうして建主は毎日、街にいながらにしてふたつの日常を行き来するのである。

髙橋一平建築事務所のプロフィール写真

髙橋一平建築事務所

髙橋 一平

設計事務所会員
設計事務所会員とは
主に建築物の設計監理や建築デザイン等を行っている建築設計事務所や建築家を示します。
通常営業中です
竣工年
2014
部屋数
2
家族構成
その他
構造
木造軸組住宅(在来工法)
敷地面積
50㎡未満
外壁仕上げ
モルタル塗+塗装
屋根仕上げ
板金葺
内装仕上げ
シナベニヤ+EP塗
床仕上げ
1F:セメント系塗床材、2F:タイル
予算帯
1000万円以上〜1500万円未満
所在地
東京都
ロケーション
住宅地