私たち住宅設計者は個別解を提案することに意義を見出し、生業としています。
今回の“方円汎居”はその意味からすれば、少し趣を異にします。
建設地周辺の街並みには固有性の手掛かりとなる根拠が希薄で、匿名性を強調するかのようにスプロール的に発生したマンションやアパートが多く、むしろ戸建の住宅を拒むような地域でした。強いて個別的特性を上げれば、敷地が道路より半階分下がっていて、周辺から見下ろされるような、本来なら望ましくない特性があることです。そこで今回は個別的に反応すべき条件に特別な切実性はなさそうでしたので、思い切って一度すべてを無視して、このような敷地の、このような規模での普遍的住宅を求めてみました。
そこで出てきたのが、最も普遍的な形態である円と方形(四角)です。それを浮かせて存在させました。つまり、低い敷地の湿気や道路からの雨水の流入を回避するため、建物を持ち上げ、周辺からのプライバシイーを確保するため、方形の外周に部屋を配し、建物の中央にくり抜かれた大きな光の空洞の円周すべてを開口部とし、必要採光は、そこを通して自然に光が入るという、最も単純で普遍的な形態となりました。
外周の部屋はどこにどの部屋が来ても無理なく当てはまる汎用性を持たせた構成にしています。そのため、外周の開口部の位置はさほど根拠はなく、普遍的位置の、四隅と中央に存在させました。結果として、匿名的建物の多い街に、普遍的でありながら、戸建としての存在をしっかり際立った個別性を得て、街の固有性を作り上げていくランドマーク的建物になっていました。
住まいを持ち上げた一階部分は、これからの変化に対応していくツールとすべく、何にでも使えるユニバーサルスペースとして考えました。依頼者としては本来望んで出来たスペースではなく、費用も要した余計な産物のはずです。ですが、実はこの家は二年前に完成していて、最初そのスペースを車庫にされるかなと思ったら、貸トランクルームにされて、そのうち空きスペースと庭をカフェにして、いつか染色織物工房にする計画などもお持ちのようです。住み手の方が余計な建築を持て余すのでなく、刺激を受けて、発展的にしかも美しく使いこなしているのを見るのは設計者冥利に尽きます。
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