東京都板橋区の閑静な住宅・商店街から続く長い私道の突き当たりに計画地はある。周辺は住宅や小規模の店舗などが密集した昔ながらの街並みで、春になると石神井川の美しい桜並木を見に訪れる人々で溢れかえる。敷地の形状と周辺環境により、建築の全体像が外部からは認識できず、路地裏にひっそりと佇む場所である。
小規模な会員制音楽サロンを計画するにあたって、比較的規模の大きめな音楽ホール並みの室内音響を確保するのと同時に、建物が密集する周辺に対する騒音制御を要求された。
不整形な旗竿敷地に対して極力大きな気積のホール空間をつくる為に、敷地東側の「旗」となる場所に主要な空間を配置し、「竿」となる前面道路側に敷地奥まで自然と動線が流れるアプローチを設け、音響設備等様々な機能を集約する付室を持ち上げて計画した。
クラシック音楽の為の空間
計画にあたり、「どのような空間でクラシック音楽を聴きたいか?」という純粋な自身への問いかけからプランニングを始めた。とてもシンプルな解答だが、「音の響きが良く、音楽と演奏者・空間が一体化するような場所」をつくりたいと思った。
楽器には普遍的な美しさがあり、繊細な音色や演奏者の所作と対比した力強く荒々しい素材をベースに空間を構成した。そうすることで、自然と音楽や演奏者にフォーカスされるような演奏の背景となる空間を目指している。時間の経過とともに深みが増す楽器のようなモダンクラシックの建築である。