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暮らしのものさし
記事作成・更新日: 2014年11月20日

舵をとって暮らす。「HADEN BOOKS」に学ぶ丁寧な消費との向き合い方


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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青山の裏通り、都心とは思えないほど静かな場所に佇む「HADEN BOOKS」は、「音楽と言葉」をテーマに2013年にオープンした、Bookstore & Cafe。

店内にはヴィンテージの書棚に写真集や古本の書籍が並び、ギャラリースペースには店主の林下さんがセレクトした作家さんの作品が展示されています。こちらの建物は元々、美術館に使用する目的で建てられたということもあり、まさに「サロン」といった佇まい。

前職のRainyday bookstore & caféから独立しHADEN BOOKSをオープンさせた林下さん。会社を通してではなく、個人として、独立した店舗として社会と関わるようになることで暮らしにどんな変化があったのか、お話を聞きました。

顔の見える店

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HADEN BOOKSの外観

林下さんは学生時代から男性雑誌のライターとして活動を始め、卒業後は出版社に入社。営業、販売、編集、と本づくりに関わる全ての過程に携わり、その後レイニーブックスカフェというお店の店長を務めます。

店舗という場所ではコーヒーを自分で淹れ、お客様に届けるまで、全ての行程が目の目の届く距離で行われます。本をつくる編集者と読者との乖離に疑問を感じていた林下さんにとって、店舗はそのギャップを限りなく埋められる場所でした。

お客さまが目の前にいると、それだけでいろんなことがわかります。年齢や服装から趣味を想像することもできますし、その人が本を手に取れば、読書の邪魔にならないような選曲をしたりと、お店を通してのコミュニケーションを大事にしています。

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こだわりのサティブレンドは音楽家エリック・サティの名を冠したもの

僕は本を買うなら顔なじみの人がいる書店に足を運びます。やっぱり顔の見える関係から知る情報っていうのは信頼できますしね。

HADEN BOOKSをサロンのような場所にしたいと話す林下さん。店内ではお客さまとの会話が飛び交う。

いまや都心のお店の多くはSNSやインターネットでお店の情報を得ることができます。それでも近しい人や目の前にあるものからの情報を得る方が、自分の感覚にフィットする情報を得られるのではないでしょうか。

インテリア、花、展示作品など、HADEN BOOKSの店内に並ぶものには隅々までこだわりが伺えます。顔の見える関係の中にある信頼できる情報が、審美眼を磨いてくれるのです。お店づくりも普段の買いものも、そういった信頼できる人の声に耳を傾けることを意識しているのだと林下さんは言います。

東京はおもしろいもの、いいものが集まる刺激的な町です。その中で選ばれるには、そこで買いたくなる理由がないといけない。

個人店だと「自分のやりたいように」という意識でお店をつくってるところが多いと思うんですけど、僕の場合はお客さんが主役です。そのために僕は色んな人の力を借りてお店をつくっています。

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店内のお花やインテリアは季節や気分に合わせてコーディネートしています

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店内の家具はほとんどがヴィンテージ

自分の船で漕ぎ出す

独立を決意した林下さんの頭の中には編集者時代の編集長の姿があります。

会社で、雑誌をつくるっていうのは大きい船に乗ってる乗組員みたいなイメージなんです。そこで当時の編集長の姿を見ていたこともあって、自分の船で、自分で舵をとってやりたいという思いがありました。

出版社に所属をしていると、作家さんを紹介したいと思っても雑誌の色に合わなければ諦めなければならない。そんな葛藤があったのだそう。

HADEN BOOKSは自分のレーベルを立ち上げるようなつもりで、気になる人や作品を紹介していこうと決意し、オープンしました。自分の尊敬する作家さんを紹介する場所だと思うとコーヒー一杯入れるのにも真剣になると言います。

伝えたいのは、「あなたはどう思いますか?」ということ

作家として作品を制作しながら生きていくって、やっぱり大変なことなんですよ。誰にだってできることじゃありません。自分はできないけど、編集者としての経験を生かしてそれを選び取ることはできる。お店を通してそういった方々を社会に紹介していくことを職業にしたんです。

作家さんのバックグラウンドを知らずに無責任にものを売れないと制作の現場を訪ね、先日は鹿児島まで足を伸ばしたそう。責任をもって売るための労力は惜しみません。

表現に対しての対価は払っていきたい。それを怠ってしまうと作品の表面までしか考えなくなる気がするんです。見返したり、読み返したりするためになるべく買います。ものを買うって行為は自分にとっても相手にとっても投資ですよね。

実家が書店だったこともあり幼少期は本にかこまれた生活を送っていたという、林下さん。

そんな環境で育ったため林下さんの作家さんや作品に対するリスペクトは人一倍強いのです。なるべく対価を支払うということを心がけ、今では図書館を利用することもないのだとか。ひとつひとつの消費活動を考え抜くという一貫した姿勢がここに表れています。
 

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「本の中には人生を変える可能性が詰まっています」と、林下さん

世界との一番の関わりは生活

HADEN BOOKSをオープンさせてからは、会社員時代よりも社会に貢献したいという思いを強く持つようになったそうです。どんな形で貢献したいのかと聞くと、「お店にきてくれた人が、自分の周りの世界を少しでも変えることです」という答えが返ってきました。

社会に対しての意見だったり言葉にしていない感情っていうのは、誰にでもあると思うんです。作品を通してお客様のそういう感度に触れていきたい。

文学やアートを通しての表現はわかりにくいかも知れないけど、わからなさが人に響くときもあります。そんな時に、作家さんに直接お話を聞けるような場所にしたいと思ってます。

人は意識して情報を得ようとしない限りは欲しいと思った情報にしか手を伸ばさないので、出会うものも自然と趣味思考の範囲に収まってしまいます。けれどもカフェに入って偶然目にする作品があったとしたら、それが多くの人にとっては予想外の出会いとなります。

作家さんの立場からすると自分のことを知らない人の目に触れることとなり、お互いにとって刺激的な出来事ではないでしょうか。

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“わたしたちはいつだって、あたらしく始められる。希望と愛と、ひかりに満ちて。”

店内にたたずむこの言葉は写真家、中川正子さんが東日本大震災を受けて発表したもの。以前中川さんが作品の発表を行った際に展示されたものですが、林下さんの意向により、今もお店の中に残り続けています。

どんなものにも生産者がいることを忘れず、できるだけ顔の見える関係の中で消費を行うこと。シンプルですが、徹底するのは難しいことです。

でも、今日から始めてみませんか?

毎日の消費は一番身近な社会との関わりであり、自身の生活を変えるための確かな一歩となるはずです。

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