この計画の敷地は、北西には富士山を遠望することが可能な位置にあり、東方の尾根が連なる山並みに温かく抱かれていることを感じ取れる場所です。計画地の周辺は古くからの民家が残る場所であり、周囲には公民館・老人いこいの家やコンビニエンスストア,幾つかの商店もあります。また,住宅地に取り囲まれてはいながら工場も点在する地域です。田畑地も近隣に多くあることから、敷地の東西をそれぞれ敷地境界に沿って北から南へ農業用水路が流れています。このように周辺には様々な生活圏や自然の風景が混在しており、ここに入居される高齢者が、この地域の人たちと交流を深めつつ、日常的な生活感を日々味わうことのできる最適な場所です。
小規模生活単位型特別養護老人ホーム「いづテラス」は特別養護老人ホームの定員70人とショートステイ10人の計80人が,家庭的な雰囲気の空間で生活を営む中で、高齢者ひとりひとりの身体と心の回復を念頭に、居宅における生活へ復帰することを求めて計画されています。
この計画においては、この施設で生活する高齢者が、近隣の生活感ある日常風景の中で高齢者相互の交流にとどまらず地域の人たちとの交流を通して、また季節の移り変わりや時間の変化を体験することを通して生きる喜びを感じること、またそのことにより心と体の健康が回復し、日常の生活へ戻ることができるようになることを願い、施設を計画しています。
建物は、敷地形状と周辺の環境を考慮し、5階建てのロの字型の建物で木立のある中庭を囲み、その中に、ここに住まう高齢者の生活の場所と緑のあるテラスを点在させることにより、安全で開放的かつ快適な,穏やかな生活空間を確保しています。同時に、その中庭は外周の建物により外部と隔絶した世界とするのではなく、北側の道路から建物入口となる車回しと入口ロビーのガラスを通して建物に囲まれた中庭と視線を通すことにより内外の連続性を保ち、また,東西南北に設けられたテラスからは建物外部の風景と中庭の風景とを両方を見ることができ、またその開口を通して、外部からの太陽の光や自然の風が中庭に取り込まれます。
中庭を取り巻く回廊とその回廊から中庭に面した共同生活室や談話コーナー、多目的室といった内部空間を、移動したり佇んだり食事をしたり、談話したり、ゲームや読書をしたり、中庭の外部の風景を見たりといった居室の中から溢れだす生活の時間を、豊かに過ごすことができるように、また、そのような日常の様々な行動の中から、ここに住む人達の入居者同士に限らず、介護者や、家族などの訪問者との、なにげない出会いや交流が生まれることを意図しています。
1階の中庭では、木立の間をゆったりと散歩することや、ベンチにすわって談笑をするなど様々な使い方ができ、上階の各階のテラスと合わせて内部空間に閉じこもりがちな高齢者に身体と心を開放する時間を体験してもらうことができるように考えています。この中庭に面しては多目的室があり、施設全体の集まりや、各種催し物など様々な活用ができるだけではなく、中庭と合わせて、地域の人々との交流の場としても使うことが可能になります。
限られた敷地形状の中にありながら、居室、共同生活室、談話コーナーなど、全ての空間に自然光と風を取り込むことができ、建物の内部にいながらにして中庭や建物の外部の環境を豊かに取り込み、三島の環境と人との多様な交流を通して、ここに暮らす老人が生きる喜びを感じ、生きる意欲を喚起する助力となる施設です。
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