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記事作成・更新日: 2021年 5月31日

介護負担を減らすリノベーション費用を建築士の目線で解説

“介護”とは、言葉では一括りにされてしまいますが、実際は一人一人状況が異なるため、リノベーションの方法や費用は状況に応じて大きく変動します。

また、介護の状況は、時間と共に変化する可能性もあるため、最初から100点満点のリノベーションを目指すのではなく、ある程度はフレキシブルに対応できるリノベーションをすることが費用対効果が高いと考えられます。

今回は、そんな将来を見据えた費用対効果の高い介護負担を減らすリノベーション費用について、事例をまじえ解説していきます。

介護負担を減らす段差を解消するリノベーション費用

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最近の注文住宅であれば、段差のないバリアフリーに配慮されたものが多くありますが、一昔前の住宅は、玄関をはじめ、トイレやお風呂、和室などいたるところに段差があります。

それらの部屋に入る前にある段差は、誰もがつまずく原因となりますので、介護負担を減らすためのリノベーションであっても、介護が不要となったあとも快適に暮らせることにつながり、費用対効果の高いリノベーションといえます。

段差解消は、出入口である扉の下枠を改修する方法やスロープをつける方法、床面全面を変える方法があります。

廊下から洋室に入る扉部分の下枠だけに段差がある場合の改修は、比較的費用は抑えることができ、1箇所あたり2~5万円程度が一般的です。家丸ごとまとめて解消すれば1箇所あたりの単価も抑えることも可能です。

玄関部分のような一段上がる場合は、スロープにより段差を解消します。スロープ設置は1箇所あたり5千円~5万円程度です。段差の大きさによって金額が異なってきます。段差が小さい場合は比較的費用は抑えることができます。

床面の高さを全面的に変える場合、床の表面仕上げだけでなく下地も合わせて改修することが必要となる場合があります。8帖の部屋の床面の高さを全面かえる場合、10万円程度必要となります。

段差解消については、介護の状況が変わっても無駄となる要素がなく、将来にわたり有効な改修であり、お風呂やトイレなどの設備の改修に比べ費用が安く済む傾向があります。家まるごと段差解消のリノベーションを行っても数十万円で済み、費用対効果が非常に高いリノベーションです。


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介護負担を減らす扉の開き戸を引き戸へ改修するリノベーション費用

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車椅子使用者が部屋に入る際、扉が開き戸の場合、押して入ることはできますが、引いて入る時は、取手をもちながら車椅子も下がらなければなりません。

また介護側も車椅子を押しながら、開き戸を開けようとすると、一旦車椅子の前にまわり込んで開き戸を開けてから、再び車椅子の後ろへ回り込んで部屋へ入って行くことになります。この開き戸が自動閉鎖するものであれば、押しながらこれらの動作をする必要があり更に大変です。

開き戸は建築的にも、開く動作分のスペースが必要で限られた面積の中では有効ではありません。引き戸にすることで、扉を開けるための動作スペースを最小限とすることが可能となり、有効なスペースを広く確保することができます。

これらの理由より、介護施設や病院の出入口は引戸が多く採用されています。

開き戸から引き戸へ改修するメリットは、介護負担を減らすバリアフリー化や動作スペースの最小限化ですが、デメリットは開き戸に比べ隙間が多く防音性が劣る所です。

ただし、戸建住宅の場合、防音性を要する部屋はあまり考えられないため、引き戸へ変えるデメリットは少ないと考えられます。

開き戸から引き戸へ改修する場合、1箇所あたりおよそ10万円~20万円です。間取りによっては、引き戸の引き代(ひきしろ)が確保できず、3分割引き戸や折れ戸への改修となった場合はもう少し費用が高くなります。


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介護負担を減らす外部手すりの改修に必要なリノベーション費用

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住宅の1階の床の高さについては、建築基準法により外部の地面より高く設計されるよう定められていますので、階段やスロープで数段上がってから玄関に入る作りになっていることが一般的です。

階段やスロープについては、介護が不要なうちは特に不自由なく玄関まで登ることができますが、介護が必要な方にとっては、その数段が大きな障害とります。

階段登口の少し手前から登り切ったところまで連続して手すりを設けることで、介護者・被介護者双方の負担を減らすことが可能となります。

外部の玄関周りの手すりについては、介護の要否にかかわらず階段の踏み外しや、小さな子どもの落下防止にも有効で、状況が変わり将来的にも不要となることはありません。

最近は、見た目もすっきりしたデザインの商品もありますので、建物外観を損なわず設置することも可能となっています。

玄関周りの外部手すりの設置費用については、1箇所あたりおよそ10~20万円です。

建物内部の手すりは、どこまで設置すればよいか分からず、設置したけど結局つかわなかったということもよくあります。

外部手すりの設置については、玄関に入る時に常に必要となるもので、将来的にも無駄となることは考えにくいところで、費用対効果の高いリノベーションのひとつといえます。


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介護負担を減らすトイレ改修のリノベーション費用

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介護するなかで、トイレの問題は非常にデリケートなところでもあり、最も悩ましいところではないでしょうか。

トイレは1人が入るよう最低限のスペースで設計されるのが一般的で、介護の為に2人分のスペースを確保した設計になっているところは稀です。

もともと1人用のトイレを、介護を入れた2人用のトイレスペースとするとなれば、増築しない限り、限られた面積のなかで、トイレ以外のどこかのスペースを削減する必要があります。

最も有効な手段として、何かのスペースを“兼ねる”リノベーションです。

一般的には、廊下とトイレと洗面脱衣室は、それぞれ独立したスペースを確保しています。それらをすべて兼ねると、有効なスペースが生まれてきます。

“廊下とトイレと洗面脱衣室を兼ねる”とは、トイレと洗面脱衣室をワンルーム化し、それぞれトイレ・洗面脱衣室へいく為の廊下スペースを、ワンルームとなったトイレ洗面脱衣室に取り込むことです。

ワンルーム化したトイレ・洗面脱衣室は、建築的な面積の有効化だけでなく、すぐに汚物を洗い流せたり、洗濯機が近くにあることで、介護の動線が非常にスムーズになります。

トイレを洗面脱衣とワンルーム化した時のデメリットの中で臭気の問題があります。最近では防臭抗菌性のある建材がありますので、それらを積極的に採用することで、ある程度解消することができます。

トイレ、洗面脱衣室、廊下をワンルーム化するリノベーション費用については、元々の間取りによっても大きく異なってきますが、トイレのつくり替えも含めて30~100万円程度です。

建物を丸ごとリノベーションする場合は、このトイレワンルーム化の改修は、間仕切り壁を少なくするため、むしろ全体費用を抑えるひとつの要因となる場合があります。

同居する家族構成によってはデリケートな問題がありますので、すべての住宅に有効な手段ではないこともありますので、専門家と相談のうえ、採用を考えることをおすすめします。


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介護負担を減らすリノベーション事例

・事例1 戸建住宅 約30坪 築20年

リノベーション内容としては、段差解消、建具はすべて引き戸、内装すべて改修、キッチン、お風呂、トイレもすべて交換、玄関前に手すりの設置、合わせて断熱改修、外装もすべて塗り替えした事例で、見た目は新築同様となっています。

上記内容で費用は約1,000万円です。建物自体が築年数20年と比較的新しい物件であったため、費用は安く抑えることができています。

・事例2 戸建住宅 約30坪 築53年

リノベーションの内容としては、段差解消、建具はすべて引き戸、内装はすべて改修、キッチン、お風呂、トイレもすべて交換しています。玄関前の手すり設置、建物内部の各所にも手すりを設置しています。

この建物は築年数も古く構造自体も痛んでいたこともあり、耐震改修も合わせて行いました。その他断熱改修、外壁メンテナンスを行い、すべてで約2,500万円です。築年数が53年と古い建物を新築同様に蘇らせています。

建物の状況によって、リノベーションの費用は大きく変わってきます。また、介護の状況も刻々と変わってきますので、状況が変わった時にも有効な費用対効果の高いリノベーションを考えることが重要となります。


文:onearchi(一級建築士)

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