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いまさら聞けない!家と暮らしのキーワード
記事作成・更新日: 2024年12月19日

狭小住宅とは?
土地探しの前に知りたいメリット・デメリット、快適に過ごす工夫を解説

いまさら聞けない!家と暮らしのキーワード

日本は島国。その多くの土地が山に囲まれているため、住むことができる土地は、全国土の27.3%しかないそうです。
地代が高く、近年はさらに地価高騰をつづけている背景もあり、生活環境や利便性を最優先に、限られた予算の中で小さな土地を購入する人も増えています。
狭い土地や変形地に建てられたいわゆる「狭小住宅」は、家の中が狭く、生活するには不便というイメージを持たれることも少なくありません。しかしこの狭小住宅、本当に不便なものなのでしょうか?
そこで今回は、狭小住宅の概要やメリット・デメリット、快適に暮らすための工夫について詳しく解説します。


都市部で人気の「狭小住宅」とは?


明確な定義はありませんが、一般的に、15坪(50㎡)以下の土地に建てられた住宅を狭小住宅と呼びます。
地価の高い都市部で多く見られ、庭がなく敷地ギリギリまで家が建てられていることがほとんどです。床面積を確保するために、地下室や3階を設けている家も多くあります。
日本では需要が多く、大手住宅メーカーの中には9坪程度の敷地に建てられる家もあり、都市部で家を建てたい人の選択肢になることも少なくありません。
狭小住宅は、一見するとその狭さが居住空間の制約となるように思われがちですが、近年では設計や設備の発展により、限られた空間を効率的に活用しながら快適な生活を実現する例も増えています。そのため、都市部での住宅需要を担う重要な選択肢のひとつとして注目されています。

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徳島の住宅 〜二つの顔(ファサード)を持つ住宅〜(納谷建築設計事務所)


狭小住宅のメリット


「どうせ住むなら大きな家に住みたい」という人は多いと思いますが、狭小住宅を選ばれる方も多くいます。狭小住宅を選ぶ理由は以下のようなものがあります。

・交通の利便性や生活環境が良い
・比較的安く土地が手に入る
・維持費を抑えられる
・必要なものだけで暮らす

生活環境や利便性が主な理由ですが、小さいがゆえに生まれる以下のメリットにあります。

交通の利便性や生活環境が良い

駅や公共施設、商業施設、繁華街、学校などが徒歩圏内にあるようなエリア、特に東京や大阪などの都市部では、生活するうえでの利便性の良さは代えがたいメリットです。この大きなメリットのため、土地を探す中で狭小地になる、という方が大半かと思います。交通インフラが整った都市部であれば、自動車を持たなくても生活することができるので、自動車税やガソリン代、車両保険料や駐車場代が必要がなくなり、公共施設や商業施設などが近くにあることで、子育てや高齢者の通院、通勤・通学、食料品の買い出しなど、費用や時間、充実した生活がしやすい、といったものがあります。

土地代の安さ

交通の利便性や生活環境が良い好条件の土地、特に都市部で利便性の良いところは、郊外に比べて地価が高いです。しかしそのような好条件のエリアでも、小さな土地や少しいびつな形の土地などは、周辺に比べて安価に購入できます。

維持費を抑えられる

まず小さな土地の場合は面積が小さいことで、毎年の固定資産税や都市計画税が安くなる点がメリットといえます。また狭小住宅は延べ床面積が少ないため、建てる際の建築資材、建てた後は冷暖房などの光熱費、建物のメンテナンスにかかる維持費も抑えることができます。

必要なものだけで暮らす

ミニマリストというライフスタイルの方、目指したい方にとって、狭小住宅はベストな選択になるかもしれません。スペースを有効活用して無駄なものを置かずに、好きなものだけに囲まれて生活する。シンプルな生活を求める、例えば単身者や夫婦二人の生活、終の住み家などが適しているといえます。






狭小住宅のデメリット


狭小住宅にはデメリットがあります。その環境によって大きく異なりますが、以下のようなものがあります。

・間取りや日当たり、風通しなどの制約を受ける
・隣の家と距離が近い
・建築コストが高くなりやすい

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間口4.5尺の家(鈴木淳史建築設計事務所)

間取りや日当たり、風通しなどの制約を受ける

限られた土地の中では、希望通りの家が実現しにくい点が大きなデメリットになります。土地が小さいことに加えて、建ぺい率や容積率、セットバックなどの条件によって、間取り、採光、風通しなど、その土地によって大きな課題となります。
これらの課題解決は、設計士の腕の見せどころになり、妥協点を探りながら、解決していくことは可能です。プランニング段階では、現在の希望や課題を話し合いますが、将来的に家族が増えた場合、売却となった場合、収納、掃除、設備の入れ替えなど、少し先の未来を踏まえて、いろいろな工夫を行う必要があります。

隣の家と距離が近い

狭小地を選ぶ理由は、その土地周辺エリアがとても人気だから、というのが大半かと思います。用途地域によっては3階建てを、地下や半地下も検討していきます。周辺住宅も同じ条件となるため、隣の家との距離が近くなることが多いです。音や日当たり、風通しのほか、プライベートやセキュリティ面、境界の擁壁等々、気にするところが多くなる分だけ対策にコストが必要となります。

建築コストが高くなりやすい

前述の設計によるコスト高、周辺住宅への対策費用によって建築コストが高くなります。加えて、狭小地や変形地は車両の出入りが難しいことが多いため、大型車両が横付けできずに資材の運搬コストがかさんでしまったり、割高な地盤改良工法しか選べなかったり、独特の間取りから工期がかさむ、選べる設備が高価、といった建築コスト高になるケースが少なくありません。
結果として、一般的な2階建ての戸建て住宅などと比べ、地下室や3階のある狭小住宅にすると、1坪分にかかる建築コスト「坪単価」が割高になる、というわけです。






デメリットを克服する工夫、
狭小住宅でも快適に暮らすためのアイデアとは


狭小住宅では、間取りの制約や日当たり・風通しの悪さといった課題がありますが、さまざまな工夫により課題を解決し、快適な家づくりへの試みがなされています。

例えば、室内の明るさを確保するために、天井をアクリル版やガラス板にしてトップライトから採光するといったアイデア。室内に圧迫感が生まれないように、半透明な間仕切りを取り付ける工夫。また、中には壁や床に隠せるベッドや収納などを備え付けた、忍者屋敷のような家もあるそうです。
ほかにも、あえて吹抜けを設けたり、天井を高くしたりして開放感を演出するプラン。ロフトやスキップフロアをつくって、空間を縦方向に有効活用する設計も人気です。

間取りや日射などのクリアすべき問題が多い狭小地・変形地では、設計士の力量が大きく満足度を左右します。実際に狭小住宅を検討する際には、さまざまな実例や間取りをチェックし、狭小住宅のプランニングに特化した設計事務所や住宅会社へ相談することが大切です。

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2つのバルコニを持つ都心の住宅(末﨑潤一建築設計事務所)


狭小住宅はどんな人に向いている?


ここまで狭小住宅のメリットやデメリットをご紹介してきましたが、この記事を読まれた方は、きっと「狭小住宅に住んでみたい!」と考える人ばかりではないと思います。
どのような家に魅力を感じるかは、住む人のライフスタイルや価値観に左右されるもの。
そんな中で、狭小住宅に向いているのは「交通や生活の利便性を重視する人」です。
仕事や学校、生活の都合で、交通や生活利便性を重視する人にとって、狭小住宅は現実的な選択肢です。テレワークが進んだ今もなお、都市部に暮らす恩恵は少なくありません。将来的な資産価値を見込んだうえでも、都市部の土地を所有しつづける価値は大きいといえます。
また、単身世帯や子供を持たない「DINKs」世帯など、少人数世帯にも狭小住宅は適しています。限られた空間でも快適に暮らせるよう設計された狭小住宅は、掃除やメンテナンスの手間も少なく、生活の質を高めることが可能です。
さらにミニマリストも狭小住宅はマッチしています。シンプルに暮らすミニマリストにとって、大きな家は不要であり、むしろ狭小住宅の方が快適に感じる場合もあるでしょう。
一方で、都市部の環境にこだわらず、広い庭や大きな家、豊かな自然環境を求めるならば、郊外の住宅を検討するのがおすすめです。






狭小住宅の建築事例をご紹介!


狭小住宅の活用事例を参考にすることで、具体的なイメージがつかみやすくなります。以下にいくつかの事例を紹介します。

光の階段室と隙間の採光スペースでつながる狭小住宅(東京都)

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光の階段室と隙間の採光スペースでつながる狭小住宅(野口修+DAT/都市環境研究室)

こちらの住宅は、下町の中小工場街、工場と工場の隙間のような狭小敷地に建つ住宅です。
住宅の北側で面する街路に大きく開いた開口と階段室、平面をやり繰りしてつくった隙間空間を採光のコアとし、細長のボリューム全体に自然光が行き渡る工夫をしました。

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2つのバルコニを持つ都心の住宅(東京都)

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2つのバルコニを持つ都心の住宅(末﨑潤一建築設計事務所)

この住宅は、都市部の敷地の中に建てる住宅として、シンプルなプログラムを2つのバルコニーを計画することによって、広さや開放感を最大限に得ることができる様に設計を行った。

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YA.house(神奈川県)

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YA.house(有限会社atelier A5建築設計事務所)

凸型の変形敷地形状を生かし、周囲へのバッファーゾーン、2Fの中庭を中心に配置した構成により、ガレージと居住スペースが分節しつつも2Fの中庭を介して接続し、明るく、風通しの良い住宅が実現しました。

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個性あふれるこぢんまりした家、画家が住む家づくり(東京都)

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個性あふれるこぢんまりした家、画家が住む家づくり(有限会社設計処草庵)

出来るだけシンプルでローコストな家にして欲しいとのご要望でしたので、総2階建ての狭小で計画致しました。お施主様は元々デザイン会社におられ、絵も描かれる愉快な方で、色のセンスも秀逸な非常に面白い発想をお持ちでした。将来、子供達を集めて絵画教室を出来るよう、壁に絵を貼れるようにしたり、黒板塗料を塗り天井に絵を描けるなどこぢんまりとしたおうちではありますが、個性ある楽しい家が出来あがりました。

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立花の狭小住宅(愛媛県)

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立花の狭小住宅(architect studio 拓(株式会社 拓 一級建築士事務所))

狭小地で陽当たりが極端に悪く、しかもL型に変形した土地という悪条件の中、車が2台ある・・・ということで、しかも3階建てにするには予算が厳しいというなか、半ビルトインで車庫とし、L型に奥まった部分にLDKを設けました。当然まともに陽が当たらない為、天窓とハイサイドライトを使い明るいリビングにすることに成功しました。また、二階は居室でいっぱいでバルコニーを設けられないため、屋上としました。

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敷地間口3.7m北壁に光を写し取る狭小住宅 : 高野の住宅(京都府)

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敷地間口3.7m北壁に光を写し取る狭小住宅 : 高野の住宅((株)イン・エクス デザイン)

間口3.7m、奥行17.4m東側接道。
かつて東西に長い建売住宅として反復した区画の一つが計画地です。
どうしても東西に長くならざるをえない生活空間の南側は直ぐに隣家にフタをされてしまっているため、北側斜線によって将来に渡り担保される高い位置にえぐり取ったように開口を設け、自身の内部空間の北壁に南から差し込む光を写し取る様な仕掛けを考えました。
この住まいでは内部北壁が採光面(実際には反射面)となり、1階まで柔らかな光を届けてくれます。

敷地間口3.7m北壁に光を写し取る狭小住宅 : 高野の住宅((株)イン・エクス デザイン)について詳しくはこちら




まとめ:狭小住宅の選び方


狭小住宅を検討する際は、設計や施工の経験豊富な住宅業者や設計士に、しっかりと要望を伝えて相談することが、家づくり成功の鍵です。
また、中古住宅のリノベーションも視野に入れることで、コストを抑えつつ理想の住まいを実現できる可能性もあります。
狭小住宅の魅力を最大限に活かすためには、まずは自分のライフスタイルや家づくりの予算を明確にしたうえで、最適なプランを検討することが大切です。
自分や家族のライフスタイルや価値観に合った選択肢であれば、狭小住宅も唯一無二の快適なマイホームになるでしょう。

Text SuMiKa運営事務局

記事作成: 2016年12月2日 更新日:2024年12月19日

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