日本は島国。その多くの土地が山に囲まれているため、住むことができる土地は、全国土の27.3%しかないそうです。(ちなみに、ドイツは国土面積のうち66.7%。イギリスは84.6%の土地が居住可能な土地だそう)
そのため、日本の家は狭くなりがちです。特に東京や大阪などの都心部では地価も高く、時には「三角形」や「くの字型」などの変形地など、あまり住居には適さない土地に家を建てることもあります。
これらの狭い土地や変形地に建てられたいわゆる「狭小住宅」は、家の中が狭く、不便というイメージから、人々にあまり好まれるものではありませんでした。この狭小住宅、本当に不便なものなのでしょうか?
実は都心部で人気のある狭小住宅とは?
明確な定義はありませんが、狭小住宅とは15坪(50㎡)以下の土地に建てられた住宅のことで、特に地価が高い都心部で多く見られます。
たいていの狭小住宅は庭がなく敷地ギリギリまで家が建てられていることがほとんど。床面積を増やすため、地下室を設けたり、3階建てになっている家も多くあります。
日本では需要も多く、大手住宅メーカーの中には9坪程度の敷地に建てられる家もあり、都市部で家を建てたい人の選択肢になることも少なくありません。
狭小住宅のメリットは「維持費の安さ」と「都市部に住める利便性」
どうせ住むなら大きな家に住みたいという人は多いと思いますが、なぜ狭小住宅が選ばれるのでしょうか?狭小住宅が人々に選ばれる理由は、小さいがゆえに生まれるメリットにあります。
まずは土地代。地方から仕事の関係で上京してきて、都心部で家を建てたい人は、高い地価が障害になります。この時に、小さな土地なら、都心部でも比較的安価で手にいれることができます。
また、床面積が少ないため、建ててからの光熱費や維持費が抑えられます。土地の面積が小さいため、毎年の税金も安くなり、主に固定資産税を抑えることも可能です。
都市部に家を持てば、通勤通学や買い物なども便利。交通インフラが整った都心部ならば、自動車を持たなくても生活することができるので、車両税やガソリン代、駐車場の代金もかかりません。
まとめると、狭小住宅のメリットは、維持費用が抑えられることと、都市部に住める利便性にあると言えそうです。
狭小住宅のデメリットは「建設費用が高くなりがち」なこと
逆に、狭小住宅のデメリットは何でしょうか?光熱費や固定資産税などの維持費を抑えられる一方、狭小住宅は建設コストが割高になりやすいのが特徴です。
まず、隣の家と距離が近くなることが多いので、隣の家や自分の家から漏れる音を遮断するために、防音対策が必要です。また、床面積を増やすために地下室をつくろうとすると、それが原因でコストが高くなることが多いそうです。
狭小地や変形地は、小さな路地にある土地も多いと聞きます。建設時には近くに大型の車両が横付けできず、資材の運搬コストがかさんでしまったり、独特の間取りから工期がかさみ、人件費がかかってしまうことも多いようです。
その費用は、東京で坪単価100万円前後。大阪や名古屋などに行くと、坪単価60万円ほどで狭小住宅を建てることもできるそうですが、やはり少し割高にはなってしまうようです。
間取りの狭さから、あまり多くの物や家具を所有してしまうと、狭くなりがちなこと、また狭小住宅が建てられる土地は、すでに周りを建物に囲まれていることも多く、日当たりに難があることもデメリットだと言えます。
デメリットを感じさせない、狭小住宅の工夫とは?
これらのデメリットを避けて快適に暮らせるよう、狭小住宅には、さまざまな工夫がされています。
日当たりを良くするために、天井をアクリル版やガラス板にして採光する。室内に圧迫感が生まれないように、半透明な間仕切りを取り付ける。中には壁や床に隠せるベッドや収納などを備え付けた、忍者屋敷のような家もあるそうです。
ほかにも、天井を高くして圧迫感を感じないようにしたり、ロフトや中2階をつくって、空間を縦方向に有効に使えるよう設計されている家もあります。
狭小住宅は都心部向けの住宅?
ここまで狭小住宅のメリットやデメリットをご紹介してきましたが、この記事を読まれた方は、きっと「狭小住宅に住んでみたい!」と考える人ばかりではないと思います。
どのような家が便利だと思うかは、住む人のライフスタイルや価値観に左右されるもの。狭小住宅は、どちらかといえば都心部に住みたい人に向いた家です。都心部に住むことにこだわらなければ、郊外の、もっと求めやすい価格の広い家に住むこともできます。
一方で、仕事や家庭の都合で、それでも都市部に住みたいという方もたくさんいるでしょう。もし狭小住宅を建てるなら、選ぶ施工業者さんによって費用は多少変化するようです。最近では都心部で空き家も多くなっていますので、新築ではなく中古住宅を購入して、リノベーションするという手もあります。
建築家さんや業者さんに相談すれば、可能な範囲で柔軟に要求に応えてくれるはず。まずはお話を聞きに行って、予算や要望を相談してみるのも良いかもしれません。
初期費用は高くなってしまいますが、通勤や通院がしやすく、買い物もしやすいので、都心部に住むメリットはたくさん。高齢になった時を考えれば、狭小住宅はお得な買い物になるかもしれません。
Text 鈴木雅矩
ライタープロフィール
ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。日本の暮らし方を再編集するウェブメディア「未来住まい方会議by YADOKARI」の元・副編集長。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。