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まちに調和する家づくり木質化のススメ(全3回)

まちに調和する家づくり木質化のススメ
第1回
2019年 7月18日

豊かで新しいまちの景色をつくる、 国産材をつかった建物と外構部の木質化

写真:淺川敏/設計:小松設計

内装に木材をふんだんに利用した「Design LAB Tsukishima」や、屋根がウッドデッキになった「ふじようちえん」などのように、近年、国産材をつかった建物の木質化が進んでいます。「木」の家づくりはもちろん、まちの景観の改善、サービス向上や労働環境や生活環境の改善をめざす都市部の企業、病院や学校などでも顕著です。

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現在のこうした木質化は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。また今回取り上げる「外構部の木質化」ではどうでしょうか。その現状や木質化を進めるための基礎知識について、全国木材協同組合連合会の肥後賢輔(ひごけんすけ)さんにお話を伺いました。

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木質化の流れとメリット

国内の木質化促進の取組みは、この10年ほどで林野庁を主導に行われるようになった活動です。かつて、国内の建築が木造ばかりだったことは歴史的にもよく知られた事実ですが、歴代の大震災や大戦による火事被害、1950年の建築基準法の制定もあり、都市部に火に弱い木造は適さないという認識が一般化。さらに高度経済成長期や人口増加も手伝って、大規模建築といえば強度・耐火重視のRC建築が定着しました。ですが、戦後70年以上が経ち、建材加工や工法の技術は飛躍的に進歩を遂げ、まち(都市)と人、建築と環境の関係性を見直そうという議論が交わされるようになりました。

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そんな中、2010年に成立したのが、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」です。木造率が低い公共建築への木材利用が新たに注目され、耐火基準も満たした木造の大規模建築も少しずつ増加。2015年からは、優れた木造建築や木製品などを表彰する「ウッドデザイン賞」も始まり、“木のある豊かな暮らし”のPRが進められるようになりました。この、まち(都市)づくりに木材が再び重視されつつある理由を、肥後さんは林業の視点から語ってくれました。

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「個人住宅の木材需要の低下と国産材資源の充実が大きな要因になっていると思います。住宅需要の低下は木材需要と密接に結びついており、ピーク時は年間140万戸もあった新築住宅着工戸数は現在90万戸台、野村総研の予測では、2030年には60万戸台に落ち込むとされています。ですから、この需要減分をどこかでカバーする必要があったのです。

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一方、国内で育ててきた人工林がかなり充実し、国内の年間木材利用量を1年間の人工林の成長分だけで賄える状況になっています。この2つの実態を結び付けるという視点で、都市部のビルや病院、企業の建物の内装を中心に国産材の活用提案が行われるようになったのです。ちなみに、首都圏や近畿圏などの都市ビルのフローリングがすべて木質化されると、なんと1,000万立方メートルの木材需要が生まれるとの提言も公表されています。(肥後さん)」


自然素材である木材には、軽さと高い強度、高い温度調節力や通気性、人を健康にする成分、建築工期やコストの圧縮など、いくつもの利点があります。たとえば、5階建RC造マンションを建て替える場合、同じ基礎や土台であれば8階建にできてしまう。木材がコンクリートの5分の1の軽さながらも強度は2~4(圧縮強度、引張強度)もある特性を持つからです。また温度・湿度の調節機能や通気性の高さは、室内温度を安定化する作用があるので加除湿の費用を抑えられる。つまり、施設の維持管理費の削減にも繋がるのです。


ちなみに2015年、山形県南陽市に完成した日本最大の耐火木造ホール「南陽市新文化会館」では、年間の冷暖房費が鉄筋コンクリートで作った場合の3分の1に減少したとの報告があります。また人の健康を保つ働きとして、木質化した小学校のインフルエンザ罹患率の減少や、α-ピネンによる心身の安定化などの報告も公表されています。


さらに建て起こし工法とパネル工法を併用して木造5階建ビルを建築した三井ホームにより、狭い敷地での工事の可能性そのことによる工期短縮やコストカットができることが実証されました。 このように「木」の家は、完成後も維持管理費の減少や働く人々の健康・精神状態の安定など、さまざまなメリットをもたらすことが科学的に証明されてきています。

外構部の木質化の現状と想定される未来

建物の分野では着実に増えつつある木造・木質化ですが、外構部ではまだまだというのが実態です。国産材の長所とされてきた木の柔らかさなどが天候の影響を受けやすく、防腐性や耐久性、耐火性の面でも長期の利用に向かないという印象を与えてきているからです。生産地や生産者ごとに異なる木材の個性が、均質な素材を大量に集める上でのネックと考えらてしまうことも課題でした。


そんな中、外構部の木質化に目が向けられるきっかけとなったのが、2018年6月の大阪北部地震。老朽化したブロック塀の倒壊により、小学生が亡くなりました。東京都や大阪市などでは専門家による通学路周辺のブロック塀の緊急点検が行われ、違法ブロック塀の危険性などが明らかになりました。検証の中で、木塀のような軽い素材をもっと活用できないか、との指摘も出され、本格的な外構の木質化の議論や取り組みが始まりました。


改めて、私たちが住むまちを見渡すと、公共の塀や柵はアルミ製や鉄製が多いことに気づきます。でもそれらは、生け垣のような生物を意識したのか、木の板や切り株を模した茶色いデザインが大半。中には、精巧な木目柄にペイントされたり、加工されたものもあるほどです。


「これこそ、本当なら木でつくりたいけど、アルミや鉄のほうが耐久性や防腐性が高いから……というジレンマというか妥協の産物だと思います。今回の外構部木質化の取組みは、じつはこうした今までの慣習や既成概念を打ち破る試みでもあります。木材は、欲しい時に欲しいものを欲しいだけ手に入れにくい、コストが高い、メンテナンスが必要、手間がかかる、とよく言われてきました。でも、そんな性質・特質を活かせるようなアイデアや技術で素晴らしい外構の実証事例を増やしていきたいのです。(肥後さん)」


非木質部材の外構は、アフターフォローなどがほぼ必要ない完成品を施主に引き渡すのが普通です。その後のやり取りはほとんどありませんが、木材はそうはいきません。引き渡し時点の状態を長持ちさせるにはこまめなメンテナンスや補修が必要なので、引き渡しの時点が始まりと言えます。言い換えれば、個人ならば愛着ある持ち物として、手をかけた分だけ楽しめる存在だということ。工務店ならば、納品して終わりではなく、施主との関係を築きながら自分の手がけたものを見守っていける、ということなのです。

外構部の木質化を具体的に考える

外構部と一口にいっても、木塀や木柵はもちろん、幼稚園の園庭や教育施設、屋外の休憩用ウッドデッキやパーゴラ(※)など幅広く、なかなか奥が深そうな分野です。前述のメンテナンスを前提にこれらを木質化した場合、どんなメリットがあるのでしょうか。
※ もともとはイタリア語でぶどう棚のこと。木材などを組んで屋根のようにつくられた格子状の棚を指す。


「木塀は周りの自然環境や生け垣などの自然物によくなじむので、街並みの景観や美観を保つのに役立ってくれます。木目や節にどれ一つとして同じものがないのでそれぞれ表情が違いますし、1/fのゆらぎで感情面で落ち着きも与えてくれます。熱の伝わり方もゆるやかで、季節による温度変化も他の資材に比べて少なく、表面にしっとりとした柔らかさや質感があるので、子ども達が触れても安全です。アルミや鉄の“丈夫で長持ち”だけではない、本物ならではのよさがたくさんあります。(肥後さん)」

写真:淺川敏/設計:小松設計

外構部の木質化が、まちの美観づくりにつながる

冒頭にもあるように、ここ数年、国産材を利用したまちの建築が増えています。隈研吾氏がデザインした新国立競技場や高輪ゲートウェイ駅などもそうです。また「木のよさを利用したものづくりを消費者目線で評価する」ウッドデザイン賞の受賞作を見ると、秋田駅や秋田駅西口駐車場ビル、北陸新幹線開業に合わせた金沢駅や富山駅など、人とまちの中心となるターミナル駅の事例もたくさん出てきます。


「まちの木質化を進める上で最も効果的なのは、『木ならでは』、『木だからこそ』と思えるような、よい具体例が増えることが一番だと思うんです。施主さんやまちの人たちが見て、触れた時によさを感じていただけるようなものが増えれば、興味を持った人たちがそれに影響されて木質化を検討するはずです。公共建築はもちろん、まちレベルで広がることが大切です。分母が増えるということは、成功例や失敗例さまざまなものが出てくるという意味でも重要です。みなさん基本的に成功を目指して制作されますが、もし何らかの部分でうまく行かなくても『なぜよくなかったのか?』の聞き取りができますし、『どうすれば改善されたか』という改善策も考えられますよね。利用木材と加工の工夫から工務店と施主とのコミュニケーションの取り方、制作物とそのメンテナンス案などまで、さまざまな知見を得る機会になればと思っています。(肥後さん)」


たとえば、木材を使ったまちづくりを積極的に進めている自治体として、岩手県遠野市があります。地域のカラマツを使った歩道の敷板のほか木製の街路灯や電話ボックスなどを新たに設置。そもそも伝統建築を保護する市であり、個人の木造住宅や木塀が多い地域ですが、その遠野らしいまちの美しさや落ち着きを、新たな木材利用が強めていると言えます。このように、通学路の整備や街並み保存にもぜひ活用してほしいと肥後さんは言います。木材の長所・短所も含めたよさや手入れの時間までを含めた、木と長く付き合ってもらえるものづくりを考える、始めるきっかけにしてほしい、と。


「木材は、資源がない日本でただひとつの再生可能な資源です。この狭い面積、人口でこれだけの森林がある国は世界的に類を見ません。日本の大きな財産だと思うんです。また都市で木材を使うと、地域の林業県にもお金を循環させることができます。エネルギー資源を各地域の国産間伐材に変えれば、地方創生にも繋がっていく。そう考えるとすごいことですよね。(肥後さん)」


いわく、全国一の森林率を誇る高知県では、野菜の温室栽培用の重油ボイラーを15基ほど木質ボイラーに変えたことで、年間50億円ほど必要だった灯油代が35億円まで減ったそう。県内産の木材ペレットを使うことで燃料代まで県内に戻るようになり、仕事や働く人の数も増えたというから驚きです。また、手のかかる木質ボイラーの導入が、野菜の品質や収入アップ、人々の意識改革のきっかけにもなったと。外構部の木質化には少し遠い話かもしれませんが、木材が導くものがなんなのかを考える参考になりそうです。


「どんな人でも、木材に出会い、そのよさを知るきっかけが必要です。公共事業として進められている『赤ちゃん木育広場』もそうですが、早いうちから木工品に触れることで愛着を持ってもらうことができます。またSDGsへの取り組みのように、環境保護に率先して取り組む企業を評価する流れもあるので、木材利用が企業側にとっても、身近で効果の高い方法だとの認識が広がってくれたらと思います。(肥後さん)」


木材業界も変わる時期に来ていると肥後さん。山にどれだけ資源があっても、待っているだけではよくない。今こそ国内の市場を見直して隠れたニーズを見つけ、現場にフィードバックしながら打って出なければ、と力のこもった話が続きます。


「木質化を進める中で、今まで交わることがなかった木材業者と施工者、施主が出会う流れが生まれてきています。以前は関わることもなければ、どんな人か知る必要もないと思っていた方たちです。でもそういう私たちが意識してこなかった層にも、これからの木材の新しい価値を見出してくれる人たちがいるかもしれない。木材についての新しいご意見や発見が得られるかもしれません。そう考えるととても楽しみです。(肥後さん)」

写真:淺川敏/設計:小松設計



木質化の基本的知識を伺った第1回目では、木材業の現状やそれにかかる新たな取り組みまで幅広いお話を伺うことができました。


都市部でのまちづくりが人やくらしと近づく今、個人住宅の考え方も変わりつつあります。新築なら平屋、リフォームなら減築など、規模よりも心地よさを重視した家づくりがさまざまな世代に広がっているのです。これは、今までの規模なら手が届かなかった無垢材や木造建築も検討できる時代だということ。家を考える中で、そのよさを見直し、愛着を持って積極的に木を選んでいく。そして添え物扱いされてきた外構部にも母屋と同じ素材を利用したり、きちんと手をかけることを意識する。近い未来にはそんな暮らし方が主流になってくるかもしれません。個人が家づくりや塀を通じて、美しいまちづくりに自然と関わっていく。そんな時代を当たり前の世界にしていくのには、日本で昔からずっと愛され続けてきた「木」が一番なのです。



文 木村早苗

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