近年、国産材をつかった建物の木質化が進んでいます。「木」の家づくりはもちろん塀や柵などの外構部も含め、まちの景観向上や改善の面で注目される機会が増えてきました。では、一般住宅への木質化を進める場合や、住宅と街並みの関係を考える上ではどんなことを意識すべきなのでしょうか。
そこで連載第2回は、建築士の長崎昭人さん(独楽蔵)、町田暁郎さん(株式会社and.一級建築士事務所)のお二人にお話を伺いました。
楽しさと機能性を両立した木のあしらい
施主の要望に加え、雑談を通じて好みや嗜好を掬いながらデザインを決めていくという建築士の長崎昭人さん(独楽蔵)。
「家を新しくすると生活が変わり、生活が変わると人生まで変わる。それくらい影響があるので、デザインというよりはその方の暮らしを整理し、人生を一緒につくることだと考えています。(長崎さん)」
建築家のお任せでかっこいいものを、という家づくりが多かった80年代に較べると、もう少し施主が関わるような家づくりが増えた現在。住宅にかける金額を抑える傾向もあってか、竣工が完成ではなく、徐々に手を加えたり、住みながら少しずつ仕上げたりする事例も増えています。そうした「自分の家づくりに参加したい」というニーズを活かせるよう、つくり込みすぎないものを提案するという長崎さん。
こうしたデザインや素材選びの考えがよくわかるのが、埼玉県入間市にある自社アトリエです。豊かな樹木が並んだ庭の中心にあるアトリエは、木材を活用したアイデアが満載。各部屋の床や扉への木のあしらいはもちろん、1階の屋根を活用した屋上庭園、庭に開いた2階の部屋には木の浴槽やウッドデッキリビング。また、外からも中からも移動できる水平にも垂直にも広がる楽しいつくりが特徴です。
「アトリエでイベントや作業をしていると、人の目を惹くんです。裏を返せば、趣味でも家仕事でも、住人の活動が見える家だとそれだけで通りも楽しくなるってことですよね。だからこういう楽しげな建物が2、3軒あれば、通りも地域も活性化できるんじゃないかなと。そんな刺激的でまちに開いた家をめざしています。(長崎さん)」
ただ、木の耐久性やメンテナンス性を上げるためには、知識と工夫も必要です。南側は紫外線で老化しやすく、北側は湿気が多いので苔が生えやすい。こうした環境による影響からは、やはり逃れられません。そこで家の裏になる場合が多い北側には無理に木を使わず、耐久性やメンテナンス性重視でガルバリウム合板のような硬質材の組み合わせを提案することもあるそう。
「木材は狭い面積でも目を惹く効果があるので、南側だけでも十分、木の印象は与えられます。ですから、玄関や南側の開口部など、よく目にする場所に重点的に使うことが多いです。それだと木材保護剤と脚立さえ準備できればメンテナンスが簡単にできますから、のちの施主さんの負担も小さくなるんです。(長崎さん)」
屋内に木を使う利点は、見た目だけでなく触覚に関わる要素が最も大きい点です。足裏の感覚は鋭く、厚みある材木や丸太を踏んだ感覚は記憶に深く刻まれやすいため、子育て世代には特に効果が高いそう。また長崎さんは、木の印象とデザインについての持論があると言います。
「木材が目を惹くのは家の中でも同じです。だから、もし壁が全部木材だとしたら、壁が迫ってくる圧迫感を受けるはず。木の家といっても、実は日本画や書道のような余白や空白が必要なので、クロスや漆喰でうまく抜けをつくることも大事なんです。またこれは家全体に関わることですが、素材を考える時は、その空間で『何が主役か』、その壁は『どんな用途か』を意識しなければいけません。(長崎さん)」
例えば、南側の庭に木を植えてデッキテラスをつくるとしたら、主役は庭の景色。室内から見えるよう、南の開口部を大きくつくろうという判断になります。インテリアとエクステリアをつないだ時に景色が重要になるならば、壁は額になる漆喰にして景色を絵のように収めるデザインが適切になるわけです。また、子どもの絵や習字を貼るという用途なら壁は扱いやすい木材に……というように、こだわりすぎず、あくまでも必要な場所に必要なだけ使う。そのほうがコストや見た目の効果、機能的にもお薦めなのだそうです。
まちに心を開いた木質化の家づくり
こちらの事例「サーフィンとのびのび子育て 平屋の暮らし」は、まさにそんな構造を持つ事例です。南側のデッキから玄関を入ると右は家族、左は子どもの空間。この二つの空間を、渡り丸太がつないでいます。子どもたちが裸足で切り株を踏んで別の部屋に行く動線や、リビングからテラスを通る様子が見える空間づくりなど、施主の希望と独楽蔵の遊び心が融合したデザインです。
予算や土地に余裕があれば、こちら「空に近いもう一つの庭 混構造(1階RC造+2階木造)」のような、RCと木造の混構造も一つの手。混構造は、家屋の1階に店舗や事務所などの大空間をつくる時に利用されますが、大きな基礎に木造を立てるような形になるため、1階と2階でまったく違ったプランにできるのが魅力です。2階を木造にして半分に納めれば、屋根に土と芝を敷いて屋上庭園をつくることも可能。木造は可変性が高く修繕や増改築もしやすいので、2階をいろいろな形で活用できるのです。木質化の可能性を広げるアイデアともいえるでしょう。
掃き出し窓などに多いウッドデッキも、思いっきり長さがあると存在感や面白さが増します。建物の予算を抑える一方、約100坪の変形地を庭として楽しんではどうかという提案から生まれたのが「南向きの三角形のリビング&庭にデッキの桟橋が架かる家」。長く伸びる庭桟橋の端にあるデッキステージは、数年したらコテージハウスをつくる計画で空間を残しています。子どもが成長したら勉強部屋をつくってもいいし、木の小屋を家族でDIYしてもいい。そんな年月を経てなお楽しめるつくりです。
こちら「【16角形 本と窓のひろば】完全分離2世帯住宅」は、幼稚園の先生が施主。たくさんの絵本を収納できる、多目的で変わった形の空間をつくってほしいというオーダーから生まれた空間です。木材の暖かみと窓の開放感が、遊びにも学びにも使える自由な雰囲気をつくり出しています。
「これはまさにお客さんとの雑談で生まれた形なんです。話しながら何が好きかを探していくと個々の個性が出てきて、自然とそういう家になるんです。家づくりは何千万もかけるものだから、やっぱり楽しくないと。(長崎さん)」
個性的なのに、何十年もかけてまちの一部分を担っていきそうな、しっくりとなじんだデザインばかり。歴史を紡いできた家屋が、ある日突然取り壊されるといったことにはならなさそうです。
「木の家がいい表情になっていく経年変化も、その抑止力になっているのかもしれないです。日に焼けた飴色は本物の素材でないと出せません。サイディング(セメント製や金属製などの仕上げ用板材)やプラスチックは時代や流行も出ますし、劣化の印象になるので建て替えようという考えになりやすい。でも木造は職人さんの手作業が基本なので、見た目の時代感もあまり出ないんです。実際、うちの30年前の建物を見てもデザイン的には古さを感じないし、多少のへたりは味になってきますからね。最近はアンティークも定着しましたよね。歴史の積み重ねを評価しようという認識が広がっているのは、すごくいいことだと思います。(長崎さん)」
新築なのに、昔からあったかのようになるという木の家。地域性も考慮しながら、関わりしろを残しつつ、まちになじむデザインを提案したいと語ります。社長の星野さんの言葉である「派手に目立つことは誰にでもできるから、上品に目立つ家をめざす」。これもある意味では、木という素材があるからできることなのかもしれません。
地場の木材を通して気づいたさまざまな木の個性
町田暁郎さん(株式会社and.一級建築士事務所)は、戸建てやビルのリノベーションなどを多く手がけるand.の代表。高知県をベースに東京や四国などで設計を行っています。施主の要望をベースに、シンプルかつ余白を残した設計を意識し、「基本的にどこかには木を入れたいとの思いがある」。そして都市部では消防法のような規制から難しさはあるけれど、内装などでできるだけ活用したいと語ります。
じつは町田さんは、2011年に高知へ移住。県内の84%が森林で森林率No.1といわれる高知に来たことで、内装材の一つとして一般的に捉えていた木材への認識が変わったと言います。工務店からも木材の利用を提案されることが増え、外壁としての活用も意識するようになったのです。
「目に見えてコストが抑えられるわけではないですが、地場の木材だとやっぱり高知の環境に合うんですね。工務店さんが東京にはない品質のよい木材を持っておられるので、それらを組み合わせて使うことも多いです。(町田さん)」
また、地場の木材だと伝えると施主にもとても喜んでもらえるそう。
「特別な感情というか、やっぱり地元の素材だということで誇りを持ってもらえるんだと思います。これは都市部にいた頃にはありえなかった反応です。(町田さん)」
ただ、木材を使ったデザインにする場合は、木それぞれの個性を考えることも大事です。例えば、パインなどの白っぽく木目が広い木材にはシンプルかつ洋風の仕上げが合いますが、高知に多いスギのように木目が細かく強い木材は和の要素が強くなりやすい、といった形に。どうバランスを取るかが、建築家の腕の見せどころとも言えます。
木材をモダンなデザインにまとめた事例
地場の杉材を活用した事例の、「shimantoおちゃくりcafe」。当初は工場のみの予定だった栗の食品加工場に、四万十川沿いのロケーションを活かし、できたての栗のお菓子を楽しめるカフェを併設しました。入口の開口部に杉を使い、背面や側面をガルバリウムでまとめたほか、木材の和の印象を洋菓子のモダンさへと落とし込むため、全体を直線的な構造に。大きなガラス窓や木材、ガルバリウム、他の壁材などとのバランスや細部の設えを細かく調整しています。
L字型のデッキが目を惹くこちらの事例「K邸」は、高知の生姜農家の住居兼食品工場です。山を背負った地形のため、擁壁に合わせた結果、このような構造に。建物の内部は杉材とベニヤ合板の組み合わせ、外壁はガルバリウムや透明なトタンに木のデッキというブレンド感がユニークです。実は扉をはじめパーツの多くが既製品。木の部分も含め、いかにスマートかつモダンにまとめるかが課題でした。
「デッキは杉の無垢材です。暑くて雨が多い高知の気候なので、それなりにカビてコケがついていますが、4年経った現在でもダメージは少ないと聞いています。ですから、浸透するステインなどを塗る通常のメンテナンスで問題ないようですね。日当たりがよく乾燥もしやすい屋外デッキは、木を使いやすい部分とも言えます。(町田さん)」
どちらの事例も、顔になる部分と裏の部分でメリハリをつけています。住宅地であれば見えない壁も多いため、コストを抑えながら効果的に木を取り入れることも可能です。やはりメンテナンスが欠かせないため、「施主さんの手が届く範囲に留めておきたい気持ちがある」とのこと。家と長く付き合ってもらうためにも、塗装の塗り直しが負担にならない広さの木づかいを意識しています。
「杉も焼けるとかなりグレーになりますし、木材はどうしても痩せたり焼けたりします。ご自身がどの程度の朽ち方が好きかでも変わりますが、数年ごとに家に手をかけてもらう時間はやっぱり必要なんですよね。(町田さん)」
屋内では、足触りのよさが感じられる床への利用がおすすめ。タモやナラ、オークなどの固い広葉樹であれば、特に傷がつきにくく暖かさも取り入れられると言います。無垢材と言えば一番に思い浮かぶスギは、暖かさは抜群な一方で柔らかく傷がつきやすいため、床に使う時は検討が必要です。
「個人的には、木枠やドア枠、窓枠などに木材の暖かさを活かしつつも、木の目はあまり目立たせないよう意識しています。それだけに、やさしい雰囲気で暖かみは感じられるけど白っぽくて空間に干渉しないシナを使うことが多いですね。同じ理由で、壁に木はほとんど使いません。大半の木は目地の個性が強いので、シンプルな空間だと、うまくまとめないと落ち着かなくなりやすいからです。ただ、土間や納戸のような半屋外では壁にもよく使いますよ。(町田さん)」
ショップやオフィスのインテリアデザインも手がける町田さん。床の木材に対しては収納や家具、扉などでバランスを取ることが多いと言います。スチールを合わせたり、ペンダントライトをたらしたりするのがポイント。曰く、視線を集めるペンダントには、木を空間の一部としてごく自然になじませる効果があるそう。家そのものの話ではないものの、木を自然に見せるアイデアとして知っておくといいでしょう。
木の外構部と街並みへの影響
最後は、家全体をまとめる外構部についてです。
「木塀は建物をよく見せるものなので、入口として家屋とセットで考えています。どうつくれば家がきれいに見えるかを意識していますが、日本の住宅街は混沌としているので、どこに基準を置くかは未だ試行錯誤しているところです。(町田さん)」
住宅街では、木塀の横にすぐブロック塀がある場合も。ごく一般的な風景ながら、2018年には違法ブロック塀の倒壊により小学生が亡くなる事件もありました。個を守る役割があるとはいえ、危険もある素材で完全に覆い隠してしまう必要性を問われると、少し首を傾げる部分もあります。
「だからでしょうか。最近はフェンスでも少し中が見えたり、低めのものが増えた気がします。僕の場合は、塀も家もそこにさもあったかのような家や外構が目標なんです。ですから、それを見て隣の人が『うちもこんなふうにしたい』と思ってくれたり、前を通る人々の意識が変わったりしたらうれしいですね。(町田さん)」
本来ならフェンスは建てたくない、外に出るとすぐに人と目があうブロックや塀のない街並みがいい、とも。挨拶ができてご近所づきあいも広がる家になれば、地域の閉鎖感も解消でき、まちを明るくする手立てになるはずと、そんなことも話してくれました。
今回は専門家に、木の家づくりを行う際に考えるべきことや意識するポイントを、屋内外、外構部とまちづくりなど幅広い視点で伺いました。それぞれの暮らしを具体化し、まちに開いて刺激を与える家づくりや、木の個性を活かして昔ながらのつながりを取り戻す家づくり。人の心や身体に訴えかける木の利点から問題点まで見直した上で、どう上手に建物に落とし込んでいくか。そんな考え方や工夫が、木の家づくりにおける、これからの大きな鍵になりそうです。
文 木村早苗
「木」の家づくり外構部木質化 特集ページへ