60代の両親のための終の住処。
敷地は南面道路に巾広く接道しているものの、周囲は住宅が建て込んでおり、単純に南面に依存するだけでは安心感が得られない。どこか身体的なスケールに欠けたこの敷地のなかに、いかに小さな人間味のある空間を生み出せるだろうか。
大屋根一枚のシンプルで大らかな佇まいの建築でありつつも、その中に小さな空間体験を丁寧な積み重ね、洞窟のように奥行きと安心感のある環境をつくりだしたいと考えた。
延床面積は24坪弱とコンパクトだが、庭・土間・LDKが大屋根によって一続きになった空間は体感的にはゆったりと感じられ、決して窮屈ではない。
また、日常に必須な車のスペースは大きくゆとりを設けてある。ビルトインガレージから軒下を経由して玄関まで至る動線は、日常生活にゆとりをもたらすことでしょう。各所の素材についても、素朴で温かみのある「触れたくなる」ものであることを必須とした。
月並みな表現だが「量より質」を圧倒的に重視した。そして、終の住処での暮らしにとっての「質」とは何を指すのか、今一度深く考える機会となった。
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まだまだ現役の両親も少しずつ老いていく。
生涯現役であることを祈りつつ、懸命に走り抜けてきた人生の最後を迎える場として、何でもない日常に溢れる豊かさを感じながら日々を過ごしてほしい。
庭木に水やりを終えた後の朝日に輝く水滴。
窓一面の眩しいばかりの新緑。
土間からの反射光に包まれる美しい天井。
一度として同じ模様の無い、窓に切り取られた北の空。
冬の低い陽射しと木漏れ日が差し込む土間。
薪ストーブの炎がはぜる音。
建築が住まい手と共に美しく経年していくさま。
穏やかで平凡に見える日々の暮らし。
しかし、よく観察すると世界は如何に変化に満ち満ちていることか。
なんでもない日々の暮らしが一番幸せに感じられますように。
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