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 敷地は10坪、建坪8坪の狭小住宅である。
京都祇園の華やかな町なみからひょいと小路に入り込むと、昔ながらの長屋が並んだ一角がある。そこに、いつごろ建てられたものか詳細は不明であるが、近隣の小学校を建替える際の古材を利用して建てられたとされる四軒長屋が建っている。その一戸に住まう施主から、建物の老朽化と耐震性について相談を受けた。
 部材の状態は悪く、基礎もはなはだ頼りない。なにより、他の3軒には手をつけずに耐震性を確保するとなると困難で、建替えが賢明であろうと考えた。しかし、実際にとりかかってみると景観条例により外観デザインは大きく制限されていること、法43条第1項ただし書きの許可申請により準耐火建築物の要求がされたこと等を除いても、小さな問題が続出し、あちこちにぶつかりながら、二年あまりかけての竣工となった。
 建物の敷地は、二項道路につながる幅員2.6mの私道に面している。43条ただしがき申請が必要だった。この私道の入口には住民が大切にしてきたお地蔵様の軒が大きくはりだしており有効幅員が不足であるという理由で許可はなかなかおりなかった。しかし、この軒を切るなど住民にとってはもってのほか、前代未聞の大事件である。施主と住民、役所の方を交えて話し合いが行われたが、どんづまりと思われた通路の先に駐車場があり、そこへの通行口を確保することでようやく許可がおりた。つぎに、施主の一戸は、長屋の端部であり、同じ長屋である隣家と壁を共有していることは当然であるが、確認申請許可がおりていざ既存家屋を撤去してみると、長屋つづきでない反対側の隣家もなぜか壁を共有しており申請許可関係に変更が必要になった。
次に、既存のガス管が、通路に面する各戸の軒を順に通ってぐるりと一周したのちに施主の家の壁に埋設されていることが判明し、新しいガス管を引込むためには、この私道に面する15戸の同意を取付けなくてはならなかった。
 小さい問題をあげればきりがないが、とにかく、建物は通路より後退した位置に、以前よりややちいさく堅固なものに建て変わった。家の中心に、植物でいう導管となるべく天窓にむけた空気の通路を確保し、これに4つのレベルで、子供と夫婦二人の生活空間をつなげた。また、小さい空間を可能な限り広く感じさせるために、全体を、連続するが視線は交差しない空間に分節すること、空間の限界である壁床天井に照明をあてぎりぎりまで意識下におくこととした。敷地は、北側が通路に接し、残る三方は4軒の住宅にみっちりと囲まれているので、北と南に採光庭を設け、ここを意識の抜け道とした。そろって読書好きである施主一家が、おのおの気に入った場所で、おのおの読書にふける。そんな見えたり見えなかったり、つかず離れずといった関係がなんとなく京都の路地を思わせる。
 京都のような町並みをいかにして守るべきか。単体でみれば、保存に耐える建物はむしろ少ない。むしろ、建替えてしかるべきものが、建替えが困難であるとか、不利益を被るいう理由から小手先の改修工事で済まされている現状がある。本来、町並みを保存しようという試みるならば、保存されるべきはその町並みに潜む精神であり、これを保存するにあたっては、建替えられるべき建物が、保存されるべき建物の精神にならい、粛々と新築できる環境を整える必要がある。
 京都の町並みを守るということは路地を守ること、と言っても過言ではないだろう。なぜならば、路地にこそ、京都の町の暮らしの叡智が詰まっているからである。これら小さな路地を守るために、もっと大きな、次元を超えた規準が必要なのではないだろうか。

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高橋 幸子 +澁川 佳典

設計事務所会員
設計事務所会員とは
主に建築物の設計監理や建築デザイン等を行っている建築設計事務所や建築家を示します。
通常営業中です
竣工年
2010
部屋数
指定なし
家族構成
指定なし
構造
木造(全般)
予算帯
2000万円以上〜2500万円未満
所在地
京都府
ロケーション
都市