建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
暮らしのものさし
2014年10月30日

身体がよろこぶ場所に、居場所をつくる。失いつつある“軒下”をデザインするS.O.Y.LABO「軒下研究会」


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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現代の軒下として山中さんが設計した「太子堂の家」のダイニング空間

みなさんは“軒下”と聞いて、どんな場所がすぐに思い浮かぶでしょうか。

軒下のある家に住んだことがある人は少なくても、軒下で雨宿りをした経験は多くの人にあるでしょう。

かつて、日本の伝統建築は深い軒を持っていましたが、今はどんどん少なくなっていると言います。

建築家の山中祐一郎さんは、屋根があり、開放的な軒下空間の魅力を残そうと、多目的に使える現代の軒下空間をさまざまなかたちで提案しています。

軒下空間の持つ魅力とは何か、山中さんに聞きました。

軒下文化を見直す

建築設計事務所「S.O.Y.LABO」を主宰する山中祐一郎さんは、外とのつながりを重視した開放的で気持ちのよい家を多く設計しています。

緑が見える眺めにこだわって選んだ事務所は、東京は江戸川橋近くにある椿山荘の裏手。窓からは普段見ることのない庭園の裏側の奔放な自然が目に入ります。
 

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山中さんが提案したいと思っているのは、「軒下のある暮らし」。

屋根の軒下が好きで、勝手に“軒下研究会”というのを立ち上げて、ひとりで気持ちのよい軒下空間をリサーチしているんです。

軒下というのは日本が急速に失っているスペースです。建築基準法の建ぺい率の問題で、外壁から1m以上張り出す屋根は面積に加算されます。屋内の面積を狭くしてまで軒下スペースをつくろうという人はなかなかいません。

昔は農作業をしたり、道具を置いたり、近所の人とおしゃべりする場でした。今でも東南アジアのホテルなどにいくと、気持ちいい場所はみんな軒下なんです。

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軒下研究会の資料より、スリランカの建築家ジェフリー・バワによる軒下空間

たしかに軒下にいると、外気のさわやかさと、頭上と背中を守られている安心感を同時に覚えます。家の中とも広々とした屋外にいるのとも違う、ちょうど良い居場所を得た心地良さ。

山中さんは設計する住宅のテラスにシンクを置いたり、ハウスメーカーのプランとして軒下を提案したり、少しずつ半屋外空間の楽しさを暮らしの中に忍ばせるようにしているそう。
 

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張り出した軒下にシンクを置き、外で調理や食事をする楽しさを提案した「蕨の家」。

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山中さんがデザイン参画した自然派個性住宅のメーカー「BESS」の「程々の家」。軒下のある暮らしを提案。(写真提供:BESS)

山中さんは事務所の窓も開け放しています。屋外とつながった開放的な空間が心地良いという身体感覚を持ち合わせているのでしょう。ビルに囲まれた都会暮らしの中ではなかなか実感しにくいその感覚、どこから生まれてくるのでしょうか。

自宅も普段から窓を開け放した暮らしで、車もオープンカーです。田舎育ちというのもあって、農家だった父の実家の軒先には、近所の人が遊びに来るスペースがありました。そうした原体験もあって、生理的に光や風を豊かに感じられる空間が好きなのだと思います。

言われてみると、窓が開放されていることで、庭園の深い緑が近くに感じられ、森の空気が流れてきます。都会の中では何とも貴重な体験。公園や緑に面した窓一つ開ける工夫で、風のそよぎや鳥の声など、暮らしの中で自然を身近に意識できることに気づきます。

外との関係を重視した家

開放的な軒下空間の心地良さを知る山中さんには、最近の気密性や防犯を重視した住宅は窮屈に思えるのでしょう。

最近のセキュリティー重視の家はさみしい。ハウスメーカーからも、いざという時に逃げ込めるパニックルームを用意した住宅が発売されています。警備システムやセキュリティー装置で外部から閉鎖的に守り、建築もそれに引きずられる傾向にあります。

でも、警戒すればするほど、人が人を信用できない社会になってしまうような気がしています。

そう考えて愛媛県の伊予三島に設計したのは、塀を極力設けないオープンな家。敷地が広く、庭が大きく取れたこともありますが、隣家との境界を生垣などで囲い、周囲から見えても良い環境をつくり出しました。
 

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最初は抵抗があるかなと思ったのですが、近所の人が声を掛けてくれるなど、かえって見守られているという安心感があるようです。都会とは条件が違うかもしれませんが、穏やかなのんびりとした家のつくりは、暮らしや生き方にも影響すると思いました。

アウトドア好きのクライアントからは、外にいるように暮らしたいという希望があったそう。それを踏まえ、窓を全開にすると、床と天井だけになるすっきりとした開放感のある家を実現しました。屋内でありながら、軒下の気持ち良さを取り入れた空間です。
 

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窓を開けると驚くほど開放的な「伊予三島の家」。

木造の平屋なので、普通は角に柱が必要です。それを特殊な構造で支え、柱をなくすことで、内と外がつながっていく。当然虫も入ってきますが、クライアントは季節が良くなるのを心待ちにしています。

こうした開けた暮らしの提案が起点になって、家や街に少しずつ広がっていけばと思っています。ちょっと前の僕たちが持っていた大らかな暮らしや街のかたちを見直すきっかけになれば。

自分たちの暮らしを一部見せることで、近所の人に安心感を持ってもらう。

このアイデアは、家自体のつくりを変えなくとも、少しの工夫で実現できそうです。たとえば、海外では、窓辺に季節の飾りや植木鉢や置きものを飾った家を良く見かけます。

住む人の個性が感じられて楽しいものですが、そうしたちょっとした遊び心やゆとりが、街行く人や近所の人とのコミュニケーションになるのかもしれません。

環境にある“ゆらぎ”を取り入れる

お話を伺っていると、山中さんが一貫して取り組んでいるのは、環境を読み解きながら、ピュアな美しさ、心地良さを取り出すことのようです。

山中さんはどのようにその心地良さを発見しているのでしょうか。

最初から美しいものをつくれるとは思っていません。

でも、既に環境にある良さを見つけて活かすことはできるはずだし、多くの人が心地良さに共感できるものを創造することもできると信じています。
創作において分かりやすく簡単に言えば“がんばりすぎないこと”(笑)。

がんばって綺麗に完璧につくると、かえって緊張感が生まれてしまう。建築ならカドを少し丸くしたり、あえて手の痕跡を残し、ムラを許容する・・・。

自然材を使うのも材料の色や表情のゆれを取り込むためです。

完璧なものは居心地が悪い。“美しさ”という個々人の価値観に左右されるものではなく、“環境”から多くの人に共通する心地良さを見出すのが山中さんのアプローチです。

人間は完全に固定された風景の中では暮らせません。精神の安定には何らかの“ゆらぎ”が必要なんです。陽光の移ろい、枝葉の揺れ、鳥や虫の声・・・。

これら環境の“ゆらぎ”が遮断されていった結果、ネットやテレビに依存するようになりました。情報も“ゆらぎ”ですから。でも、身体が喜ぶのはどちらでしょう。

僕が外とのつながりを重視するのもそこが“ゆらぎ”の場だからです。

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家に差し込む木漏れ日や影の“ゆらぎ”

私たちにも場所を読み解くことはできるのでしょうか。

ネコが一番気持ち良い場所を見つけて寝そべるのと同じで、身体感覚に従えばいいのではないでしょうか。

余計なものを取り除き、もう一度身体感覚に敏感になること。山中さんは、建築家の目を通して、周辺の環境に繊細になることの大切さとそこから感じ取れる豊かさを伝えてくれます。

まずは、テレビを消して、良い季節には窓を開けて暮らしてみる。そんな簡単なことから始めてみませんか。

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