本計画は、愛知県大府市にある若い夫婦とそのこどもための住宅の改修である。既存の建物は、もともと同じ敷地内に建つ母屋に付属するゲストハウスとして約50年前に建てられたRC壁構造の建物である。RC壁構造は、全ての壁が構造を担うがゆえ、他の構造形式と比べ圧倒的に間取り変更が行いにくいという難点がある。施主の要望は、隣接する母屋からのプライバシーの確保と、仕上げを一新しながらも構造までは変更しないという代々伝わる遺産を守りながら新たな住まいの顔をつくるというものであった。
RC壁構造における壁は、まさに構造を担う「壁」であり、圧倒的な存在感で50年間この建築を支えてきた。「壁」自体が構造を担保する力強さを持ちながらも、それ故に建物の内外を分断するのに十分な存在である。「壁」には50年前にゲストルームとして計画された際の、住宅にしては不釣合いな大きさの開口が随所に開けられていたものの、RC壁構造特有の壁厚がそうさせるのか、その開口は内外をつなぐというより、境界をより一層意識させる穴のようであった。
本計画では、「壁」と開口の関係性に着目した。躯体をそのままに古い建具を新たな規格サイズの建具に替えようとすると、躯体と建具の間にスキマができてしまう。このスキマを塞いで違和感無く壁を仕上げることもできるが、歴史がつくるこのスキマを建築に昇華させたいと思い、全ての建具と躯体の間にできるL型のスキマに奥行きをもたせ内外を貫いた。これらはデッキや雨除け、母屋からの視線の緩和など各諸室の用途の拡張や外部におけるアクティビティを誘発する機能を持つ。
この歴史のスキマに与えた厚みにより、面として境界然としていた「壁」と開口の関係に内外のつながりがもたらされ、境界が曖昧になる。ほぼ全ての壁(躯体)の変更ができない中で、小さなスキマを拡張することによって住まい方に奥行きを与えるという、最小操作で最大効果の獲得を目指した。
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