○小さく棲むことを潔しとする。
都心から電車で30分。未だ畑が点在する良好な環境、古くに開発された住宅地。50m2あまりの小さな敷地、道路は狭く寄り添うように家が建つ。建坪若干8坪。家族が住むには小さく、斜線も厳しい。時に、日本家屋がウサギ小屋と揶揄されて久しいがオーナー夫婦はいわゆる“ちび”、小ささには抵抗がない。むしろ今一度“小さく棲む”という価値観を前向きに捉え、潔しとした住まいのあり方を探ることが大きなテーマとなった。理想は寅さん。トランク一つで全国巡る軽快さ、起きて半畳寝て1畳。荷物は少なく厳選し、家族が増えれば肩寄せ合って暮らせばいい。光熱費、維持費だって効率がいい。そんな考えからむしろ小さいことがよく思えてくる。
○小さいこと、違う広がり
小さいとはいえ、見方を変えれば、空間の連続性とつながりで広がりを持たせられないか。3つの方法を試みました。
1・各階とも階段を中心として行き止まりのない回遊性のあるプランとしました。あえてガランと見えるワンルームにせず、少しずつ次の空間が見え隠れし、つい次の空間へ引き込まれるような、感覚を刺激する空間のシークエンスの多様性で広がりを持たせています。
2・家具もまた広がりの一翼を担う。北面には横いっぱいの5m強の長いデスク、階段脇には2階からロフトへと縦いっぱいに連続する棚板。使い方と場所を限定しないことが緩やかな機能変化を生む広がりを持たせる一因となりました。
3・時間の広がり。経年変化し味がでる素材の選択。外部のレッドシダー、その茶褐色の針葉樹材は時間をかけて銀灰へと変化します。内部も要所に木材やタイル等、時間をかけて変化し深みの増す素材を採用。また隙のないディテールよりは徐々に手を加えられ、手触り感がでるような懐あるディテールを心がけました。
○近隣とのバッファーを考える。
突如現れる住宅と近隣との関係を紡ぐため、見た目も柔らかいレッドシダー不燃木材を採用。併せて道路面は建物をセットバックし白い玉石を敷き詰めました。陽を受け明るく隣地との緩衝空地として、街の景観にも寄与。敷地境界を曖昧にしたことで敷地の小ささは払拭。またバルコニーと外部の境は縦格子になっており、季節による日照変化の調整や近隣からの視線調整のため脱着式としました。この縦格子によって、バルコニーはウチにもソトにもなり、変化するバッファーゾーンとなった。季節により機能的にファサードは変化します。
小さい中に、広がりのエッセンスを詰め込んだ小さな小さなちびの家がここをスタートにぐんぐん時間をかけて成長し、いつしか手になじみ、変化しながら生活を大きく広げていくことを期待しています。
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