農業振興地域に指定された棚田が南側と西側に大きく広がる敷地に建つ、家族3人のための戸建住宅である。
この土地に初めて訪れたのは3年前の初夏。田植えが済んだばかりの水田の緑と水の反射、そしてそこを抜けてくる爽やかな風が既に植えられていたカラタネオガタマやビワ、レモンなどの樹木を優しく揺らす音が心地良い環境を作り出していた。
建主の要望は、朝の光で目覚めたり心地よい風の中でうたた寝したりできる「風や光を感じる空間」、そして、どこにいても相手の気配を感じられる「ひとつながりの空間」、居室から収納が見えないような、「箱状の収納室」、の3つであった。
周辺からの制約や視線を遮るものが無い穏やかな土地において、閉鎖的なユートピアでは無く、自然環境の変化の中に自らが参加できるオープンエンドな場をつくることで、これらに応えることとした。
そのための空間の構成は至って単純である。壁、床、屋根を同じ線として扱い、その線で構成した6本のコの字型のリボンを高さを違えて3本ずつ並べ、90度回転させて重ねるだけである。
南北に抜ける1階では、南から北に下がる周囲の棚田の環境を取りこみ、東西に抜けをもつ2階は西側に平面的に広がる棚田と遠景となる鎮守の森へと続がる。
それによって、光も、風も、音も、空の広さも、取り込む環境の異なる18ヶ所の、各々が、そして、内外が連続する豊かな空間が生まれた。
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