eco(エコ)、省エネ、低環境負荷など、「地球環境に優しいこと」を表した言葉は1990年から使われ始め、今ではテレビやインターネットで毎日目にするものになっています。こうした環境意識の高まりは住宅業界にも影響を与え、高断熱・高気密住宅、パッシブハウス、ZEH住宅…とさまざまな「エコ住宅」が誕生しています。
ZEH住宅の「ZEH(ゼッチ)」とは「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」を省略した言葉で、エネルギー効率を飛躍的に高めた、エネルギー消費量がほぼゼロの家のこと。省エネ+高断熱でエネルギーの消費を抑えることに加え、自家発電を行うことで、自宅で発電したエネルギーだけで生活ができる家もあるそうです。
政府が、2020年までに標準的な住宅にすると目標に掲げていること(※)や、環境意識の高まりから注目を集めているZEH。この記事では、ZEHの事例や、メリットやデメリット、建築時の補助金などについてご紹介します。
※出典:ZEH普及に向けて〜これからの施策展開〜
経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー対策課(平成27年12月)
特徴は「省エネ・創エネ・高断熱」。
ZEH住宅のメリットとデメリット
冒頭で、ZEHは「エネルギー効率を飛躍的に高めた家」だと説明しましたが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
ZEHの特徴は以下の3つ。
・省エネ(省エネ効果の高い照明、給湯、換気設備を使用し、消費電力を抑える)
・創エネ(太陽光発電や蓄電池、燃料電池でエネルギーを自給自足する)
・高断熱(断熱性を高め、冷暖房のエネルギー効率を高める)
これらの特徴により、ZEHは「家で使うエネルギー」よりも「家が生み出すエネルギー」が大きくなります。結果、消費エネルギーが抑えられ、環境への負荷を低減することができるそうです。
ZEHのメリットは低環境負荷だけではありません。エネルギー効率がいい家なので光熱費の節約ができ、自家発電して余った電気は電力会社に販売することができます。そのため、月々のランニングコストを抑えられ、電力販売による利益を得ることも可能なのです。
反面、発電や断熱などの初期投資が高額になりがちで、将来的に設備のメンテナンス費用がかかってしまうことがデメリット。一概に低コストで暮らせる家とは言いきれません。(初期費用は国から補助金が出るので(2017年時点)、軽減することが可能です。)
このZEH、じつは環境庁により普及活動が進められています。それに伴ってさまざまな優遇や補助が行われているのです。次は、国からの補助金について解説します。
ZEHの補助金は全国一律70万円、条件次第で+αも
環境庁は、2020年に新築住宅の50%をZEHにすることを目標に普及活動を進めています。そのために組んだ予算は62億円(概算要求、2018年)。これらのお金は、家主や工務店などに補助金として充てられています。
補助金額は、一戸あたりの新築・改修に対して70万円(2018年現在)。これは地域区分や建物の規模によらず、全国一律で支給されるそうです。また、蓄電施設を設ける場合は、蓄電量1kWhあたり3万円の補助が受けられます(こちらも2018年現在、上限30万円)。
加えて、低炭素住宅(省エネに効果のある素材・建材や、地熱・太陽光発電設備)を導入していると、20万円の補助を受けることが可能です。
補助の条件は、「申請者が常時居住する住居であること」や「専用住宅であること(店舗用の建物でないこと)」など、また賃貸住宅や集合住宅は補助の対象になりません。
補助を受けるためにはZEH認定ビルダー(工務店やハウスメーカー)に設計や建築をお願いする必要があります。認定ビルダーは一般社団法人環境共創イニシアチブのホームページか検索可能なので、ZEHの建築を検討している場合は検索してみましょう。
参考:一般社団法人環境共創イニシアチブ
https://sii.or.jp/zeh29/builder/search/
具体的にはどんな家?ZEH住宅とその事例
ZEHの補助金制度は2012年から始まり、すでにいくつものZEH住宅が建設されています。ZEHの家はどのようなものなのか、その事例をいくつか紹介しましょう。
太陽光パネルで電力と熱を自給する、町田のオフグリッドハウス
オフグリッドハウスとは、太陽光発電などを使って電力を自給自足できる家のこと。この家では電気と熱の両方をつくることができるハイブリッド太陽光パネルを取り入れ、太陽光を発電だけでなく給湯にも利用しています。
建物はもちろん高気密・高断熱仕様。夏場は井戸水を利用した冷房システムで涼しく、冬場は間伐材からつくられたぺレットを燃料にしたペレットストーブで暖かい室温をキープ。消費エネルギーを抑えながら快適な環境をつくり出しています。
開口部を減らして断熱性をアップした、広島のZEH住宅
外からの冷気や暖気は家の開口部からやってきて、冷暖房のエネルギーを消費してしまいます。この家は窓やドアなどの開口部を協力減らして、高気密・高断熱の家を実現しました。
開口部を減らすと家に射し込む日光が減り、家の中が暗くなってしまいそうですが、吹き抜けを設けたり軒の長さを工夫したりすることで、窓が少なくても明るい室内をつくり、照明にかかるエネルギーを節約しています。
環境に優しい建物は、ZEHのほかにLCCM住宅(建設、運用、廃棄時に、できるだけ省C02に取り組んだ家、ライフサイクルカーボンマイナス住宅のこと)や、認定低炭素住宅(節水、屋上緑化などを行い、エネルギー消費を抑えた建物)などがあります。このうち認定低炭素住宅は、所得税の控除が受けられたり、ローンの金利が優遇されるので、環境対策ができるだけでなく実利も得られる建物になっています。
これからはエコ住宅が標準の時代?
家を建てる際には、かかる費用や住み心地など、家主の都合を優先してしまいがちですが、これからは地域や国のことを考えたエネルギー収支が求められる時代になってくるでしょう。国の方針もあり、今後ZEH住宅はますますその数を増やしていくはず。ランニングコストの削減などメリットも多いので、新築の際は導入を検討してみてはいかがでしょうか。
Text 鈴木雅矩
ライタープロフィール
ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。日本の暮らし方を再編集するウェブメディア「未来住まい方会議by YADOKARI」の元・副編集長。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。