江戸時代から残る古民家の保存・改修計画である。
明治期以降の数度の増築の結果、既存部分と増築部分の継ぎ目で雨漏りが起こり、一部で梁が腐食し床が抜け落ちる事態が見られた。
また、敷地内の大木の根が建物の一部を持ち上げ、道路に面する石垣を押し出そうとしていた。
古い町並みが残る地域であることから、景観に変化を与えるような現代的な手段は避け、むしろ建築当初の江戸時代の姿に近づけることで問題の解決を図った。
具体的には、大木付近の増築部分を減築して外部化することで建物の安全性を確保し、木を眺められる広い縁側を設けるとともに道路に面する部分を焼杉の大和塀で囲った。
また、腐食した柱・梁の一部を交換するとともに、屋根荷重を減らすために湿式工法で葺かれた屋根を既存の瓦を再利用して乾式工法で葺き直した。
玄関戸は以前にあったとされるくぐり戸付きの大戸を再現し、梁が下がって動かなくなっていた玄関横の格子も動かせるよう復旧した。
居住用ではなく来客が集う場所として利用されるため内部は間仕切らずに大空間とし、什器の一部に既存の建具や欄間を再利用することで改修前の面影を感じられるよう配慮した。