60代夫婦、お二人の為の終の住処であるこの家は、神奈川県横須賀市の内房に面した高台に建っている。天気の良い日は浦賀港、その先の千葉まで眺望でき、心地良い海風を感じることもできる。敷地は南東角地に位置しているため、光を取り込むには十分な立地であった。そんな敷地で奥様が求めたのは、存分に好きな事を楽しむ事ができる明るい空間。ご主人様が求めたのは少し薄暗い落ち着きのある居場所。お二人が求めたのは全く対象的な空間であった。ご要望に答えるためにまず、リビングを二つに分割。奥様のスペースは外部に開くことで一日中光を感じられ、キッチンとアトリエ、その先の庭とを繋ぎ、明るい空間を。反対にご主人様のスペース壁面には直接開口部を設けず、間接的な柔らかな光で優しい落ち着きのある空間を目指した。壁ではなく明るさで、それぞれの居場所をつくる計画を試みた。また、ご主人様の居場所は天井高を低く、奥様のスペースは天井高を高くすることで、それぞれの性格がより強調される空間とした。また、天井高に変化を付けることで床にずれが生じ、一つの隙間が生まれた。この隙間がある事で、二階の東面に設けた大きな開口部からキッチンへと明るい朝日が差し込み、反対にキッチンスペースからは遠くの空を眺める事ができる。また、東の光は階段を通り、静かにご主人様のスペースに間接的な明るさを落としてくれる。一つの窓が、二つの性格の違う部屋を作り出す。家の様々な隙間から光が入り、視界が開け、風が抜ける。そして、空間が繋がり家全体が一つの箱となり実際の面積以上の広さを感じる事ができ、その繋がりは家族をも繋げてくれる。二人の対象的なご要望がそんな住まいを作り出した。
前田哲郎
小島泰介
アーキノロジオ
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