◆建築の目的-多様な思いが集う場
まちづくりに集う人々の思いから、すべては生まれた。土地の取得から、建築の実現まで、住民がまちづくりの主体であることへの確信と、よりよいまちをつくろうという熱意が原動力となった。その思いを受け止める場として、「共通する目的に向かって集う多様な思いを、包み込む空間」が、めざすテーマとなった。
◆立地・プロセス-拠り所を求めて
路地が入り組む密集市街地である一寺言問地区(東京都墨田区)では、防災まちづくりが繰り広げられてきた。まちづくり団体である「一言会」は、地区内の工場跡地を、まちづくりに生かしたいと、墨田区に買収を要望。時を経て、紆余曲折の末に、公共用地となった。この工場跡地が、計画の敷地である。 この敷地が、広場として、整備されることとなり、一言会では、住民、区、専門家が共にイメージづくりに参加するワークショップを行った。しかし、回を重ねる中で浮かび上がったのは、まちづくり活動の拠り所となる集会場と、その内容を伝える展示スペースの必要性であった。広場のみの整備予定であったため、この結果は予想外であった。しかし、一言会は、その重要性を区に切望し、最終的に、広場と共に、集会場が造られることになった。
◆集会場の空間計画 -大らかな一体感
まちづくりの拠点となる集会場は、多様な考えを受け止め、育む、大らかさと、共通する目的に向かう一体感とを合わせ持つ建築空間であってほしい。この考えを基盤に、各空間をゆるやかに配置しつつ、大きな屋根でそれらを一体に包みこむ基本構成を描いていった。
広場に面して、まちづくり展示室を、開放的に展開した。一方、使用しないときは閉鎖空間となる集会室を奥に配置し、隣接して、心の和む場として、坪庭を設けた。ロビーを、外部空間の延長と位置づけ、広場から坪庭へと通り抜けるように配した。坪庭に面して、ロビーに濡れ縁を設け、憩いの場を形作った。また、各空間を仕切るガラス戸をすべて引き込むことで、公園の東屋のように、外から内まで境なく空間がつながり、多様な活動が展開できる構成とした。これらの空間を、大きく庇の広がる一つの屋根で包み込んだ。その屋根を対角線方向に高くなる造形にすることで、包み込む一体感と共に、空の高みへと向かう広がりを生み出した。集う人々の内面が、より高い目的- 理想へと向けて、高まり、深まる空間をめざした。
◆設備計画 -路地尊
一言会のまちづくり活動の特色の一つに雨水利用がある。雨水タンクと手押しポンプを組み合わせた「路地尊」という名の防災設備が、まちの各所に設置され、まちづくりのシンボルとなっている。この集会場も、路地尊のひとつと位置付け、屋根の雨水を地下の貯留槽(10t)に溜め、手押しポンプおよび、トイレの洗浄に利用すると共に、非常時の水源として活用予定である。
◆広場の計画-まちへ広がりまちを引き込む
この敷地に、通り抜け通路を設けることが、地域防災上、重要であった。これを受け、この通路に、柔らかな曲線を持たせることで、まちが通路に沿って引き込まれ、逆に芝生の庭がまちへと広がるイメージを生み出した。今後、まちの人たちの手により、広場が徐々に育くまれるように、通路以外は、大きく手を加えない計画とした。これまでのまちづくり活動を受け、リサイクルガラスの舗装や、工場跡地の御影敷石の再利用、掘削土を利用した築山など、環境への配慮に心掛けた。
これから、まちづくりがさらに広がることへの願いを込めた計画である。
http://www.ne.jp/asahi/prime/nishijima/ititera.html
掲載
「建築設計資料集 70 コニミュニティーセンター2」