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暮らしのものさし
記事作成・更新日: 2014年 9月12日

ボトムアップ型の公共はもう夢じゃない。co-ba中村真広さんに聞く、場づくりに必要な嗅覚とセンスとは?


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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空間プロデュースにおける企画から運営までを一貫して手がける、「株式会社ツクルバ」。

クリエイターのためのコワーキングスペース「co-ba shibuya」を筆頭に、誰でも好きな本を置いて共有できるシェアライブラリー+イベントスペースの「co-ba library」、その他、オフィスや飲食店、商業施設まで、手がける案件は多岐に渡っています。

ツクルバの二人の共同創業者のうちのひとり、中村真広さん。空間プロデュースのディレクションを担っています。

中村さんがツクルバの立ち上げから一貫しているコンセプトは「コミュニケーションの生まれる場所づくり」。今回は中村さんに、人の関わりの生まれる場所はどうやってつくられるのか、心地よい場づくりとは何か、についてお聞きしました。

居心地さえ良ければ、どんな営みだってできる。

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ツクルバ共同代表の一人、中村真広さん

小野 今回、初めて「co-ba library」に足を運びましたが、なんだか仕事場にしては落ち着くというか。「子どもの遊び場です」と言われても「ヨガのスタジオです」と言われても、あるいは「ゲストハウスの居間です」と言われてもすんなり納得してしまうような、そんな不思議な広がりがあります。

中村さん 一つは、板張りの床にしたことが大きいと思います。板張りの床って、土足禁止になっちゃうんですが、それがかえって良い効果を与えているみたいなんです。家みたいな一体感が出るし、リラックスできる。

イベントの時にはテーブルを片付ければ、お客さんに床に座ってもらうことができます。子どもたちが走り回っても安心。ヨガ教室なんかも開催できるし、使い方はいくらでも考えられます。

小野 なるほど、確かに、この空間にたとえば赤ちゃんを抱えたお母さんがいても、おばあちゃんがいても、あまり違和感がない。むしろ、しっくりくる感じがします。どうしてこのような場を考えたのでしょうか?

中村さん 僕、場所のあり方というのは必ずしも、部屋の名前とか機能に依拠しなくていいんじゃないかって思っていて。

最近、カフェっぽいオフィスとか、カフェっぽい家、みたいなものがもてはやされてきているけれど、でもそれって「カフェっぽさ」が好まれるってことじゃなくて、たんにカフェが心地よいからオフィスや家もそうしたいって事ですよね。

これまでは「家」、「オフィス」、「サードプレイス」という役割りや機能で、空間のハードが定義付けされてきたわけだけど、場所って本来そういうものじゃないよな、と。

居心地さえ良ければ、どんな営みも可能なんじゃないかと思うんです。使う人の用途や、その時々のTPOによって、いろんな役を担えて、いろんな使い方ができる、そういう場所がもっと増えたらいいんじゃないかと思って。

ハードとソフト、両方の設計経験から学んだ空間づくり

小野 中村さんが、場づくりに興味を持ったのはいつからなのでしょうか。

中村さん 大学時代は建築家になろうと思い、東工大の塚本研究室で学んでいました。建築の射程範囲って、企画が整ったあとの竣工するまでがメインなんです。オフィスを設計しても、そこで実際にどんなビジネスが立ち上がるのか、人々がそこでどんな風に過ごすのかまでは、分からないわけですよね。

それってもったいないな、もうちょっと自分の射程範囲を広げたいなと思って、大学院卒業時にはデベロッパーに就職したんです。そこで一年ほど働いたのちに、今度は博物館のデザインを手がけている会社に転職して、博物館の企画ディレクションの仕事に携わりました。

小野 博物館の企画というと、一体、どんな仕事なのでしょうか?

中村さん 各博物館の学芸員さんの頭の中には、とほうもない量の専門知識が詰まっているわけだけど、それをそのまま子どもたちに伝えても響かない。「iPadなどのデジタルツール、模型やグラフィック、空間演出で、どうやったらそれを面白く、魅力的に子どもたちに伝えてゆくか?」それを考える仕事です。

例えば、アンモナイトの専門知識を、そのまま専門家の言葉で語っても、素人には通じない。「開かれていないアカデミズム」をそのままにせずに、どうやってやわらかくして、カスタマーにどうコネクトするか。それをずっと考え続けていました。

小野 今度はハードでなく、ソフトの設計に関わったわけですね。

中村さん 2年くらいその会社で働いていたのですが、2011年3月に震災があって。もともと悶々としていたんだけど、自分にはもっと他にやりたい仕事があるんじゃないか?と思い、村上とツクルバを立ち上げたんです。

で、最初にどんな場所をつくりたいかを考えた時に、レーベルに所属しているクリエイターが、協業しあって仕事を生み出していけるようなシェアオフィスがつくれないかなと思って。

それまで一般的だったシェアオフィスは、Laboタイプというか、間仕切りがありすぎて、となりの入居者とコミュニケーションが取りにくい。もうすこしフランクな場所をつくれないかなと思っていた時に、アメリカで流行していたコワーキングスペースを見学しに行って。

「これを日本にもつくろう」と決意して、起業4ヶ月でツクルバの最初の事業である「co-ba shibuya」をオープンさせました。

小野 ツクルバで初めて空間プロデュースの活動を始めたと聞きましたが、それまでの仕事の経験からも大きな影響を受けているそうですね?

中村さん ツクルバを立ち上げる前に、ハードとソフト、両方の設計を経験したことは大きかったと思います。

建築の研究室時代やディベロッパーでのハードの設計と、博物館の企画を考えるという、建物の中の、コンテンツ部分の設計、どちらも経験したからこそ、co-baのように、単なるデザインに終わらず、来る人のニーズに答えられる場づくりができたんだと思います。

現在は、ツクルバが行うco-ba事業の他に、「365+(サンロクゴプラス)」という、飲食のイベントプランニングサービスを立ち上げました。結婚パーティーのような改まったイベントだけでなく、誕生日会や歓送迎会など、もうちょっとカジュアルなトーンのイベントの企画演出もできないかなって。

場をつくるだけではなくて、そこに起きるコミュニケーション、イベントなど、ソフトの面にまでも意識を向けて、人々にとって心地の良い場所をつくれたらと思います。

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365+(サンロクゴプラス)

「co-ba shibuya」には、青春の匂いが残っている。

小野 人々にとって、心地よい空間をつくることを生業としていらっしゃいますが、ご自身にとって心地のよい場とは、どのような場所なのでしょうか?

中村さん ぱっと入った時に「あ、ここは心地よいな」と感じる場所ってあるじゃないですか。場所って、そこにいた誰かの思い出や痕跡みたいなものが残っている気がするんですよ。記憶の履歴というか。それらは形として残っていなくても、それが場所の深みになって立ち現れてくる。

「co-ba shibuya」も、できてから3年間のあいだにいろんなスタートアップが立ち上がり、成長して自身でオフィスを構えるようになったりして出て行きました。彼らが切磋琢磨してきた痕跡、彼らの通過していった痕跡が、この空間に染み付いている気がするんです。青春の匂いがする、というか(笑)。

小野 なるほど。存在していた人の匂いや生活の痕跡って、確かに残りますよね。

中村さん 建築をやっていた人間が言うことじゃないかもしれないですが、ある場所をパッと見た時に、ハードウェア以外の部分からの情報量ってとても多いと思うんです。たとえば、会議スペースで誰かが激論しているとか、めちゃめちゃ集中して仕事をしているとか。使っている、他の誰かからの情報。

だから、場所というものは、つくり手ではなくて、それを使う人によって成り立っていると思うんです。

小野 まずは、使う人ありきということですね。

中村さん そうです。例えば、巣鴨の街のおじいちゃん、おばあちゃんと、渋谷の若者を総とっかえしたら、全然違う街になるでしょう?場所の主役はあくまでもそこにいる人なんですよ。

だから、使う人、一人一人が主役になれる、もっと前面に出られる場所の方が、人って居心地良くいられると思うんです。

小野 空間デザイナーは、あくまでも脇役で……。

中村さん そう。僕は今30歳ですが、例えば僕らよりも前の建築家の先生たちの設計は、その人個人のセンスで、ディティールまでをも詰め切るようなつくり方をしてきた。

でも、今は、そこを使う人みんなを巻き込みながらつくる、そこに来る誰もが自分の場所だと思えるような場所のほうが、必要とされるんじゃないかなと思うんです。

コワーキングスペースという用途を考えた時に、デザインがかっちり細部まで決まった、ゴリゴリのコンセプチュアルな空間だとしたら窮屈すぎますよね。

それよりも、机を動かせばイベントができる、だとか、好きな本を置ける、だとか、利用者といっしょに、空間も使いこなれていく。使う人が創意工夫する余白のある、使う人と“場”自体のコ-クリエイションが起きる場所。そういう空間をつくりたい。

もう、つくり手がドヤ顔で居座っているような時代じゃない。空間デザイナーや建築家は、枠組みをつくれば良い。そういう意味で、心地よい空間をつくるためには、つくり手が主人公になりすぎないことは大事だと思います。

ボトムアップの公共は、もう夢じゃない

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小野 飲食店やオフィスなど、数々の場づくりを手がけて来たtsukurubaさんですが、今後手がけてみたい仕事はありますか?

中村さん 公共空間を手がけてみたいですね。図書館や公園、市役所など、みんなが関わる場所を、もっとおじいちゃんおばあちゃんから子どもまでが参加できる場所にしたい。それも、これまでどおりのトップダウン型ではなくて、co-baのように、そこに集まる人たちの力でつくり上げる場づくりができたら素敵だなと思うんです。

たとえば、街の公園をつくる時、クラウドファンディングによって市民の出資が可能になり、意見も反映できるようになったらどうでしょう。「家が近所だから、5万円出してでもそこに公園がほしい!」って人もいるだろうし、あまりお金は出せないけど、町づくりには参加したいという人もいる。

そうやってみんなでお金と意見を出し合ってつくる、そういう新しい公共がもうそこまでやってきていると思うんです。

小野 クラウドファンディングに参加すれば、自分の街に愛着が湧きそうですね!

中村さん アメリカでは既に、クラウドファンディングサービス「kickstarter」で、ニューヨークの廃止したメトロの駅を、美しい地下公園に蘇らせるプロジェクトが、150,000ドルの調達に成功したり、公共プロジェクトに特化したクラウドファンディングサービス「Spacehive」が登場するなど、すでにクラウドファンディングによる市民の公共事業への参加が始まっています。

日本でも、もし面白い行政マンがいて、こちらに働きかけてくれさえすれば、そうしたボトムアップ型の公共は、もう夢じゃない。

僕たちもco-ba shibuyaをオープンさせる時に、クラウドファンディングやfacebookなどのネット上のツールによって、たくさんの支援をいただいて、こうして実現することができました。

デジタルツールを使えば、co-creationができる時代なんだ、見知らぬ人の誰かの声を、差し込むことができる時代なんだ、って、実感しちゃったんです。それはきっと新しい行政の形になってゆくと思う。

みんなの力ででっかい仕掛けをつくれる。公共のためにみんなのお金を使う。将来、そんな場づくりができたら素敵ですね。

自分が体験したことのある場所しかつくれない

 
小野 空間デザインや場づくりをしたいと考えている人に、最後にアドバイスをいただけないでしょうか。

中村さん 場所づくりに興味がある人は、とにかくとにかく自分が興味を持つことをいろいろ体験したほうがいい。飲食でもスポーツでも恋愛でも。ライブの感動を伝えるのだって、ライブに行かないと伝えられないでしょう。それと一緒で、自分が体験したことのある場所しかつくれないんですよ。

お店の設計をする時には、仲間とまじめに議論するんですよ。デートで行きたい場所ってどこだろう?それも、まだ付き合ってない、これから口説きたい相手とどんな店に行くだろう?って。その店は駅から徒歩何分くらいの場所にあるのが理想か、帰り道に10分くらいは歩いた方が、もう少し話す時間ができていいかなとか。

小野 面白い!そこまで考えるんですね。

中村さん 店のエントランスは、男性がドヤ顔できるように、中がどうなっているのか分からない真っ黒のドアで、サプライズがあったほうがデートにはいいだろう、とかね(笑)。そういうのって、体験しないと分からないですよね。

ハードウェアのデザインを考える上でも、場がもたらすフィーリングをたくさん体験したほうがいい。たとえば自分が身長170cmだとして、何センチの天井だと圧迫感を感じるのか、とか、どれぐらい狭い通路だと、緊張を感じるのか、とか。

その緊張を逆に空間づくりに利用することもできるし。その空間がどういう効果を自分にもたらすのか、身体とのコミュニケーションをちゃんと自分がした上で分かってくるものだから。
 

(インタビューここまで)


あくまでも、主役は人。場所に人が添うのではなく、人に場所が寄り添ってくる……。ツクルバが生み出す場所には、使う人に多くの部分を委ねてくれるような、まるで、「Aだけど、Bもありだよね」という、腕を広げてでんと構えてくれているような、そんな器の大きさを感じます。

今回のインタビューでは、中村さん本人の人柄からも、それを感じました。俺、俺って、尖らない。海のように奥行きの深い、そんな人柄。場所を自分で囲ってしまわず、たくさんの人に委ねることで、場所も人も、のびのびと育ってゆく。

それが難なくできてしまうのは、中村さんがご自身の空間プロデューサーとしての嗅覚とセンスに、絶対の自信があるからなのかもしれません。

今回お聞きした中村さんの場所づくりのメソッドは、きっと、自分の暮らしやすまいの場所づくりに取り入れることができるはず。ぜひ、実践してみてくださいね。

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