「塀が手招きするように人が集まるパブリックスペース」
古くから受け継ぎ守り続けてきた当該地に再開発の話が持ち上がりました。周囲は農地で田畑に囲まれた広大な土地に農家住宅ならではの大らかで余裕のある建築物は周囲の区画整理された土地、ハウスメーカーによる画一的な住宅とは一線を画しその佇まいはまさにこの辺りの土地の主を建築物の外観から醸し出しています。
広大な田畑の中に荘厳な日本庭園を据えてポツンと一軒家が建ち、周囲の土地は区画整理され、線を引かれ、切り取られ、平滑にして太い道路が縦横無尽に張り巡らされたことでこれまで違和感なく過ごしてきた社会(パブリック)と個人(プライベート)の距離が極端に近くなりました。境目が田畑によって緩くつなぐ役割を担ていたバッファ(緩衝帯)が無くなりました。個人と社会の適切な距離は、これまでの環境によって変わって来ます。これまで十分な距離があったクライアントにはその距離が近いと感じ、その距離を長くすることは難しいがその距離を稼ぐために窮屈な社会の中で人々は、塀という人工物を多様するようになります。それは防犯面を考えた安心感を得るため、自分の場所・領域を世間・社会に周知するためです。周囲との佇まいの違うこの土地の主の表(ファサード)の構えとして何が適切か、主要な機能を確保した上で現代の社会に合ったオリジナルな塀を創るため設計に取り組みました。
まず、この土地の重要なコンテクストとして大きな木造建築の母屋と離れ、元牛舎の車庫、並びにお社、荘厳な日本庭園の配置、それぞれの性質を改めて考えなおしました。特に大きな要素となるのがこの土地の守り神、豊作を祈って建てられたであろう「お社」です。この地域には数点同様のお社があり、この「お社」をどのように扱うかが設計の重点ポイントと考えました。
前面道路は、保育園の散歩道や幼稚園のバス乗り場となっていて、「お社」にお参りするお母さんとお子様の姿をよく見かけ、その光景は微笑ましくこれからもこの画を残したいと心から思いました。官民境界をただ仕切る、分ける塀を建てるだけではなく、境界によらない、機能によって分かれる塀となるのが適当と考えました。その塀はどんなものがよいのだろうか、周辺地域の方々にこの土地をこれからも守ってもらえるようみんなで祈願する「お社」となり、思い出の場所になるような場所で、にコミュニティを生み出すような場所となる「人の集まる塀・パブリックスペース」となるように計画しました。
中間期にのんびり過ごせる「ベンチ」を置き
夏場「木陰」を生む枝振りの良い常緑樹を植え
周囲の気温を下げるコカのある「涼しくなる塀」
この塀は、保水セラミックをルーバー状に取り付けることで塀を構成しています。保水セラミックとは材料内に水を多量に長時間保ち続けることのできる人工再生材料で、水が蒸発し気体に変化する際の気化熱によって周囲の温度を下げることのできる材料です。この現象を利用して周囲の気温を下げて涼しいスペースを作り出すことができると考えています。また、保水セラミックに保水する水については車庫屋根と接続した雨水タンクを利用した灌水システムを構築し、当該塀に組込むことで蛇口をひねれば塀の保水セラミックに水を自動的に保水させることができます。舗装材のインターロッキングも保水セラミックを採用しています。
「手招きする塀」が人々を集め、コミュニティーを生み出し、涼しく居心地のよいパブリックスペースとなることを期待します。
資料請求にあたっての注意事項