長野県軽井沢の森の中に佇む住宅。敷地は浅間山を背に南側へ緩やかに傾斜している。約900年前の浅間山の噴火によって火砕流の被害があったとされるエリアであり、敷地内を掘ればすぐに浅間石と呼ばれる溶岩石が現れる。よって水捌けは良く、軽井沢の中でも比較的湿気の少ないエリアである。車は東側と南側道路から主にミズナラやコナラの木々のなかを縫いながら建物の南側へアプローチし、1階の軒下に収まる。南側の陽を取り入れることと、パーキングに雪を落とさないようにとの理由から、片流れ屋根が北側を水下として約20m伸びる。このプロポーションは、天井高が低くなる部分の平面計画や隣地への日影規制等から決定した。2階の南側の大きな甲板状のバルコニーから続く外回廊が、屋根勾配に合わせる形でシフトしながら建物をぐるりと巡る。建物内においてもこの連続して変化する屋根勾配に呼応して2階は床レベルが一部異なる。1階はエントランスホールと執務室とゲストルームを合わせたようなセミパブリックスペースが水平方向/X軸、Y軸に変化しながら(時に飛び出しながら)計画されている。そして、建物北側で垂直方向/Z軸に延びる吹抜けを通して2階へと繋がる。Z軸に変化し続ける2階もまた、室名を与えるのが難しいベッドとミニキッチンとダイニングテーブルとバスタブが置かれたプライベートスペースにおいて、床材をフローリングで統一することで、それらが共存可能な空間をつくりだしている。開口部は、南側はもちろんのこと、朝陽を取り入れるためと、周囲の景色の抜けの良さから東側を主としている。構造は混構造で、それらのバランスを取ることに重点が置かれた。具体的には屋外の大きな甲板や、天井高があり且つ無柱空間の2階のプライベートスペースにおける柱梁の構成や、上階を意識した1階RC造の壁や梁などである。設備は主要居室に灯油によるFF式暖房を備えると共に、1階床には蓄熱式床暖房、2階の壁の一部には壁面暖房を備え、年間を通じて東京との行き来の多い建主がいつでも利用できる計画としている。外構計画は、既存樹木を活かしながら東側は地元の浅間石で屋外広場を形成している。長さと連続性のある1階の犬走、2階の外回廊、屋根の軒下が3層に重なり、空に広がりながら景色を切り取るそのラインがインテリアからも感じとれる建物である。
船のようなもの
建主からの要望は安心して眠れて、朝陽を気持ちよく享受できることであった。森の中の敷地東側に建つ母屋(平家)の寝室は、1階であることと東側道路に近いことから、やや不安を感じながら寝ていたからである。さて、この建物は船のようである。船は甲板/デッキを境に水面と接する船体/ハルとその上の操舵室や船室/キャビンからなる。この建物のデッキは張り出しながら四周を巡っているため、下からよじ登ることは困難で、つまり外部においてはハルとキャビンに明確な境界をつくりだしている。頑丈なハルはコンクリート造、軽快なキャビンは木造(一部鉄骨造)でつくられ、隆起する地面/サーフェイスに漂っているようである。
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