敷地は三熊山の麓、静かな場所にある。
クライアントからの要望はシンプルな平屋の家であった。
敷地はどこにでもある分譲地に見える。
隣家の迫る南側は日当たりが十分に期待できなさそう。
北側は道路を挟んで向かい側の家の借景を望める。
一般的な分譲地にある建物の建ち方としては日当たりを優先し
南側に小さくても庭をとり北側は閉じられていることが多いが
この敷地においてはそうした建ち方がふさわしくないように思えた。
そこで南北とも同じ窓の取り方をし、ウッドデッキを双方につくることで
南北の庭がどちらも使えるような配置としている。
同じような開き方をすることで気づいたことがあるが
風はよく抜け、家の中にやわらかく光は拡散している。
大きな切妻の屋根の下、家族の暮らしをおおらかに
包むうつわとしてその在り方はふさわしいように思えた。
そうしたおおらかさは仕上げにも共通している。
壁は土佐漆喰と漆喰。床はオークの無垢材。天井はペンキ。
木は杉、ニヤトー、メラピ、ラワン、タモと様々な材が使われている。
要素を少なくしてシンプルにするということよりも、
多様な要素のどれかが突出することなくそこに在る状態に
することで、温かく静けさのある雰囲気となった。
それぞれの要素は弱いが全体として大きな強さを家が持ち
そうした背景の強度は暮らす上で包容力のある居場所をつくる。
家ができた時クライアントに言われたことがある。
無印の家のようなシンプルな家を最初はよいと思ってたが
真っ白な空間はどこか魅せながら暮らすという部分がある。
部屋が散らかっていても気にならないような
シンプルな暮らしのできる家であることが自分たちには
合っていてこの家は楽に暮らせるうつわであると。
そう言っていただけると、おおらかなクライアント家族の
暮らしにあった家ができたのかなと思う。