静岡市、駿府城下の住宅街での計画である。当該敷地は北側道路、左右隣家に挟まれ、南には4階建てのマンションがある。南マンション自体は当該敷地の境界線より15m程離れて建てられている。
計画当初、母一人息子一人の二人で住まう事を想定された。母は老後の住処として、息子は30歳・独身サラリーマンであった為、今後の家族形成の見通しが不明瞭であったが、結婚等世帯数の増加を意識し二世帯住居を希望した。サラリーマンと言う立場上、転勤等の可能性も少なからず存在する。その為、完全分離型、すなわち1棟2戸の長屋形態とし計画を始めた。いざ転勤となれば1戸を賃貸として収益につなげる事が出来るからだ。
第1に考慮しなければならないのが、家族数の変容である。母の世帯に関しては、恐らく20年30年は単身としての世帯で生活する事が予想される。問題は息子世帯だ。よくある世帯の変容からすれば結婚し、妻が出来、子が出来、多くて4、5人の家族になる。しかしながら、5人家族の想定で間取りを決めたとしても、生涯独身の可能性もある。結婚しても子供が出来ない可能性もある。仮定の話で部屋を余らせるのは勿体無い。また、間仕切りを多くする事は空間の圧迫にも繋がる。空間的に開放性をもたらし、且つ、将来の変容に対応し易い住居を目指した。
比較的綺麗な矩形をした45坪程度の敷地。必然的に建物も綺麗な矩形をベースに計画を進めた。2,3階住戸に当初一人で暮らす事から大きなワンルームの様な形態を考えた。吹き抜けで上下階を繋ぎ、階層も1体となる様な大きく見える空間だ。2階玄関とリビングの間には間仕切りを立てずストリップ階段を用いて緩く空間分けを行った。玄関からリビングが見通せる為、よりプライベート要素の強いキッチン、洗面、風呂、トイレは水周りのコアをつくり、そのコアが目隠しの役割を果たすような配置計画とした。玄関とリビング、リビングとキッチン、それぞれがオープンな繋がりを持っている。しかしながら十分な余地を残す事で、必要に応じて家具等で空間分けを行う事が出来る。ストリップ階段を上りきった脇にフリースペースを2ヶ所設けた。これは使用用途が無くても空間の広がりに一役買っている。世帯人数が増えた際には共有スペース、個人スペース、納戸と多用途に機能するヴォリームを設定した。3階はその他に、自身の寝室と来客宿泊等を想定した計2室用意した。現状の空間用途をうまく変容させる事で、改修工事を行わず永く住まう事を目指した。更には、この住宅には1階親世帯がある。40年後、息子が老後を迎えた際には、1階に移り住む事でバリアフリーの観点からも解決策が得られる。
空間の「質」に関しては、前述の夫々の空間が「居どころ」となる様、注意を払った。ソファを置くスペース、屋外にベンチを置くスペース、座れる様にする為の階段の幅、座した時に丁度良い背もたれになる腰壁、、、更にそれら「居どころ」の想定には開口部の選定が意識される。光・風の通り道をつくりながら隣家からの視線をかわす位置に開口部は配置された。これら多くの仕掛けを組み込む事で「心地良い居どころ」を形成している。
居どころに心地良さを感じながら家族が無理なく過ごせる事を目指した住宅である。
資料請求にあたっての注意事項