曽祖父が建てたという築120年の養蚕農家の改修工事である。新築すべきか修繕すべきかと悩まれていたご夫妻の住まいを拝見して、この素晴らしい建築は地域の財産だと思えた。文字通りこの地域では中心的な役割を果たしていた家で、かつては近所の方々の寄り合い所でもあったという。屋根や壁を剥いでみると囲炉裏のあとや蚕室の跡が生々しく現れた。見事な梁の架構や現代建築とは異なる空間の設えを現代の住まいとして改修し再生することの尊さを思った。再生とはまさに建築に新しい命を吹き込む作業なのである。全ての構造体を生かし、120年前の木材の命を蘇らせつつ現代生活に馴染む所作が加えられている。古くて新しい命を宿したこの民家は文字通り癒しの場としての住まいの本質を内包して新しい鼓動を打ち始めた。
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