田舎の古民家暮らしに憧れ、購入したのは築100年以上の家。建築家、地元の工務店が力を合わせ、現代に住み良く生まれ変わらせた合作リノベーション。
text_Shiho Ikeda photograph_Kai Nakamura
精華町の古民家
・京都府相楽郡精華町
〈設計〉多田正治アトリエ+ENDO SHOJIRO DESIGN
・住人データ
松尾さんご家族
隆昭さん(42歳) 会社員
正子さん(48歳) 会社員
長女(14歳)
長男(11歳)
田舎でのんびり暮らしたい、と四方を山に囲まれた精華町に越してきた松尾さんご家族。戸建ての貸家にしばらく住んだ後、兼ねてからの夢であった古民家での家づくりを叶えるべく、物件を探し始めた。
「見た瞬間に、この家に住みたいと思いました」
と、正子さんの心を奪ったのは、里山に建つ築100年以上の日本家屋。長年空き家だったため、外観も室内も傷みは激しかったが、力強く優美な柱と梁が建物を支え、土間やかまども当時のまま残されていた。
この古い家を実際に住める状態にするまでに、多くの難題があろうことは想像に難くない。松尾さんご夫妻は、京都の町家改修を手掛けている地元の工務店、アーキ・クラフトへ相談に訪れ、そこで建築家の多田正治さん、遠藤正二郎さんに出会う。腕利き職人と建築家の恊働というかたちで、古民家リノベーションを進めていくこととなった。
家屋の状態は躯体自体に問題は少なかったものの、基礎や屋根はぼろころがあったため補修。しかし、建物の安全性が確保されても、100年以上も昔の家は、今の生活とはかけ離れた造りになっている。
「それでも古民家が持っている雰囲気をなんとか壊さずに、現代の生活に対応できる住まいをつくりたい。松尾さんも僕らも同じ気持ちでした」
と、多田さん、遠藤さんは振り返る。
建物の中央を貫く土間は、居住空間を東西に分ける。西側は昔ながらの田の字の間取りだったが、仕切りを取り、屋根裏も撤去して縦横に広がる大空間とした。そして新たに、白い箱状の居室を組み込み、その周りにLDK、縁側、書斎、収納スペースを配置。各空間は回の字につながり、家族の気配を伝える程よい距離感が生まれた。かまどのあった東側には、トイレと洗面・浴室を新設。子供や将来両親が過ごせる予備室も設け、暮らしの変化に備えた。
「子供達と一緒に居られる今も、夫婦ふたりになったときも、楽しく過ごせるいい家になったと思います」(隆昭さん)
玄関の引き戸など、一部の建具は新調せず、昔まま使っていくことにした。撤去した屋根裏の床材は天井材として再利用するなど、建築家のアイデアや職人の技術が随所に光る。
この歴史ある住まいは、この先も時間を積み重ねることができるように、見事に生まれ変わったのだ。
〈物件名〉精華町の古民家〈所在地〉京都府相楽郡精華町〈居住者構成〉夫婦+子供2人〈建物規模〉平屋建て〈主要構造〉木造〈築年数〉 築約100年〈建築面積〉114.35㎡〈床面積〉1階 111.34㎡、ロフト階 22.82㎡ 計134.16㎡〈設計〉多田正治アトリエ+ENDO SHOJIRO DESIGN〈施工〉クラハラ+アーキ・クラフト〈設計期間〉4ヶ月〈工事期間〉4ヶ月〈竣工〉2012年〈総工費〉1800万円
Shojiro Endo
遠藤正二郎 1980年 神戸市生まれ。2003年 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。05年 同大学大学院工芸科学研究科造形工学専攻修士課程修了。09年 京都に「ENDO SHOJIRO DESIGN」設立 。
ENDO SHOJIRO DESIGN
京都市下京区中堂寺櫛笥町7・16
TEL/FAX 075・201・7086
endo@endo-design.jp
www.endo-design.jp
Masaharu Tada
多田正治 1976年 香川県生まれ。2000年 大阪大学工学部建築工学科卒業。02年 大阪大学大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了。02年~09年 坂本昭・設計工房CASA勤務。06年 多田正治アトリエ 設立。
多田正治アトリエ
京都市下京区中堂寺櫛笥町7・16
tadamasa20@td-ms.com
www.td-ms.com
※この記事はLiVES2013年4月号に掲載されたものを転載しています。