敷地周辺を歩き回り遠くから眺めてみたり、太陽の動きを確認したり、風や光、周辺の音、匂い、川面の色、
木々のざわめきや枝葉の様子などこの土地の風景を作るものを探した。
暫く眺めていて軒が低くうずくまるような建物を作ろうと考えていた。それも東西に長く一直線に機能が配置される家がこの土地に合うのではと思った。
南側に走るバイパスの騒音は風向きが南から北へ変ると、有無を言わさず建物に飛来する。その音を無理に遮断するのではなく、敷地南端に設けた「蛇籠とコールテン鋼」の塀と低い軒の平屋で緩やかに逃がしてしまおう。
機能を横一列に配置することで、すべての居住空間に南からの光を取り入れることができる。
そしてそのカタチはこの家のかつての家業であった醤油醸造の建物を彷彿させるものにしたい。
都会生活からこの地に戻ってきた施主ご家族に「伝統や記憶」といった匂いをどこか感じさせることが出来るかもしれない。
玄関木戸を開け風が流れた後、通り土間の向こうには水田の青臭い苗の匂いが仄かに満ちているかもしれない。居間の濡れ縁の先にある小さな庭の上には青い空が一面に広がるに違いない。
日本漆喰協会 第九回 作品賞 受賞