新潟平野の西端に位置する住宅。
この地域では、標高600m程度の2つの山系、弥彦山と角田山が望めます。
クライアントも、子供時代、山を見た記憶を語るほど、地域の人にとってのランドマークであり、クライアントの希望も、2つの山が見えることでした。
しかし、設計前の調査では、2階レベルから、弥彦山は望めましたが、角田山は、前の家に遮られ、山裾しか見えませんでした。そして、今は見える弥彦山も、将来、新しい家が立つと、見えなくなる可能性があります。
例え、見えなくなったとしても、2つの山は、この場所にとってのアイデンティティーであり、敷地の外に広がる、大きな世界を示唆する存在です。2つの山の存在を、生活しながら、つねに意識させる羅針盤として、この住宅をつくりました。
2つの焦点:家の正面は、敷地の角度とは無関係な2つの斜め面から構成されています。
一つは、住宅の中心から弥彦山に向かう軸の直交面であり、もう一つは、角田山に向かう軸の直交面です。
将来の変化も想定すれば、直交面の開口部が提供するのは、「山の見える風景」ではなく、周囲が変化しようとも、大きく変わることなく存在し続ける、地域の原器としての「山の暗示」です。そして、ここはまた、その2つの山系が交差する場となります。
「引き伸ばされた1階」と「縮められた2階」:1階は、長い廊下が続き、廊下の両端は、鏡張りとなっています。
鏡の効果で、廊下の奥行は、実際の距離より、はるかに長く引き伸ばされます。そうやって、1階では、実際以上に、奥行を長く演出しています。
廊下壁面を濃い色で仕上げる一方で、両側のガラス窓から明るい光を入れて、視覚的に、壁面の暗さを際立たせています。2階の空間との差異を、より大きくするためでした。
2階は、2つの直交面に向かって、放射状に開いた空間です。洗面所も上部は大きな欄間で一つにつながり、窓から明るい光が差し込みます。
平面的には、壁や家具が放射状に配置され、断面的には、部屋奥から窓に向かって、天井に上向きの勾配が付いています。
逆パースペクティブを付けることで、1階とは対照的に、奥行を縮め、外部の環境を引き寄せ、直交面と、「山の暗示」を、より身近に意識させようとしました。
2つの直交面は、鈍角でぶつかります。平面や直角の窓とは違い、環境の中に、室内が、やわらかく入り込んで行く効果を生みました。
そして、また、鈍角で町に対して突き出すことで、少し生気に乏しい街並に対して、この建築自身が、今度は小さなランドマークとなることも意識しています。
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