間口一杯の建物、前面に格子戸、内部に中庭という伝統的な町家のスタイルは、狭い敷地条件の中、光や風を取り込みつつ、プライバシーを守り、居住空間を確保する優れた解決法でした。ところが、下町では、土地の有効利用の観点から高容積化が進み、建物を単に上部に積んだだけの劣悪な居住環境を生み出してしまいました。
伝統的な町家が持つ理にかなった居住性を再び取り戻すための答えがこの住宅です。「平面的・伝統的」な要素を「立体的・現代的」な要素に置き換えたのです。「格子戸」が「可動ルーバー」に、「中庭」が「インナーテラスと屋上テラス」に、「通り庭」が「トップライトと透けた階段」へと進化しました。
可動ルーバーは格子戸のように光や風を取り込みつつプライバシーを守りますが、角度がついていることで外からは全く見えず、開け放てば開放感も獲得できます。インナーテラスと屋上テラスは、光や風を取り込みつつ、空への意識をより強め、空間の立体利用を促進します。トップライトと透けた階段は、家の縦動線であると同時に上からの光を取り込む空間でもあります。
伝統的な町家は1階が「陽」2階が「陰」の空間ですが、この家では、穴倉のような「陰」を感じさせる1階から、上層へ上がるにつれ、「陽」の空間を感じながら、開放的な屋上へと出られるようになっています。
外観、内観とも、構造は鉄筋コンクリート造でありながら、木材をふんだんにつかった仕上げとし、伝統も継承しつつ、現代的なデザインにしています。
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