敷地は奈良市西部のゆったりとした住宅街にある。少し高台になっている南北に細長い角地で、南東の向かいには配水タンクと公園があり、視界が開けている。もともと古い間知石積の擁壁があり、高いところで道路との高低差が3m程あった。その擁壁を取り壊して、新たにコンクリートで車庫と擁壁を設けた。日当りの良い南側は、庭を設けて道路から距離を取り、東側は圧迫感の少ない米杉の板塀で、居住空間のプライバシーを守るように敷地いっぱいに囲いながら、足場板のデッキを1階の床と同じレベルで浮かせて、居間やダイニングと大きな開口部で一体的に繋がるようにした。擁壁が高く聳え立つ既存の坂道の風景では、街と住居が断絶してしまう。そうならないように、木の柔らかい表情や法面を使って高低差を処理し、街との距離感を調整している。
建物へは、南側からこのデッキを通り抜けて、ぐるりと距離を取ったアプローチにしている。内部に入れば、少し暗いところでは遠くに光が感じられたり、断面に落差を付けて、暗がりから明るい場所へと空間が大きく変化したりと、細長い単純なプロポーションの空間は穏やかでありながら、時としてダイナミックな変化も楽しめるようになっている。南面と、東面の1階に設けた大きな開口部から十分な光と風を取り込み、それ以外の壁面は最小限の窓と、少ないトップライトで処理している。限られた開口部によって引立つ大きな壁面が、落ち着きのある生活空間を実現している。また、内部の仕切りに細長い開口を設けたり、壁の小口を丸く削り取ることで、ところどころに小さな繋がりを持たせて、直接的でない開放感と家全体のゆるやかな繋がりを意識した。敷地の細長さを生かした、動線の長さと奥行きの深さに抑揚をつけたこの家で、さまざまな生活の場面をゆっくり楽しんでほしいと思っている。
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