計画の建物は愛媛県の西に突き出た佐田岬半島の中ほど、海から一気に上がった山あいの斜面に貼りつくように建っています。松山空港から電車でも車でも2時間以上かかる現場を6カ月間通って監理しましたが、建設地は遠方ながら お住まいは埼玉県で事務所から近かったため、設計中の打合せには苦労しませんでした。
住まうのは50代のご夫婦。この家は奥さまと足に障害を持ち車椅子を利用するご主人が宇和海の絶景と共に暮らしていく終の住まいです。計画は緊急時の車椅子での避難を容易にするため、斜面に鉄骨支柱を立て道路レベルに床を合わせて浮かせて建てたフラットハウスです。
半島の山間にはミカン畑が段を成し 急な斜面にポツポツと点在する小屋の様子はユニークで印象的です。この家もその中の一つになりたいと願い他にならって倉庫のようなテクスチャーを取り入れ、そこにデザインを添加し建て主の個性を重ねられるよう心がけました。竣工時にはドローンを使った撮影をしています。眼下に宇和海を臨めるすばらしい環境と合わせてご覧いただければ幸いです。
何と言っても眼下に海を見下ろす海抜500mのロケーションです。豊後水道を往く船が夕日の影を長く伸ばした様はまさに映画のワンシーンのようです。2つ目は車いす利用をはじめハンディキャップを持つ建て主に配慮しつつ要望のあったデザイン性を持たせて使い勝手と心地よさを同時に実現できたこと。3つ目は風土に溶け込む小さな小屋のような外観にしたことにより周辺の景観との調和がとれたことです。
車椅子と急傾斜地という相反する事柄を災害などの緊急時に機械に頼らず避難できる条件で計画しました。通常 斜面を利用し2階建ての計画が構造的にも経済的にも負担が少なく合理的ですが、要件を満たすため鉄骨の支柱で舞台を組み道路のレベルとフラットにつながる平屋としました。強固な基礎が仕上がるまでは強烈な自然環境に阻まれ工事会社ともども苦労を重ねましたが、そのかいあって 広々としたワンフロアを車椅子で自由に行き来できる家はたいへん満足いただきました。
私たちの川越(埼玉)の事務所から現場の愛媛県佐田岬まで飛行機とレンタカーを乗り継いで片道半日かかります。6カ月間通い完成させました。道中は台風やがけ崩れによる道路の不通などの困難に何度も見舞われ正にアドベンチャー。ただ それを踏まえても猛烈に楽しい半年間でした。
私たちが依頼いただく家の環境は様々です。交通に便利でも近隣環境に難がある場合は建物がそれを補うように、時には利点に変えられるように努めます。逆に周囲の環境が良い場合はそれを邪魔せず暮らしに取り込めるような工夫をします。仕事や家族の都合などから住む場所はそうそう自由には選べません。ただ、設計により暮らしを心地よくすることも出来る、これから家づくりを考えている皆さんの選択の幅が広げられる一例になればと思います。
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