敷地は最寄駅から徒歩10分ほどの新興住宅地内にある。建主は元々今とは異なる職業に就いており、住む場所も違っていたが、マイホームを手に入れるために職を変え、袖ケ浦に理想の土地を見つけ移り住むことを決めた。2年にわたり設計者を探し続け、千葉・東京・神奈川と対象範囲を徐々に広げていき、やっとの思いで探し当てたのが私であったという。何と設計者冥利に尽きることか。そんな思いのこもった依頼であったため、何とかこの家族の理想を叶えたいと思い迷わず引き受けることにした。
「大切なお金をハウスメーカーや工務店が建てる家に使う気にならなかった」と言うほど意匠性や機能性にこだわりのある建主なので、全体のイメージや諸室に対する要望は明確であった。求められたのは主に4つ。まずは並列に停められる3台分の駐車場を確保すること。次に前面道路からの視線が室内まで届かないようにすること。個室は全て6畳以上とすること。最後に自然を感じながら生活ができる空間とすること。これに加えて厳しい予算内に納めなければならなかった。
前面道路に対しては駐車場とアプローチで間口がいっぱいになってしまったため、必然的に建物は道路から奥まった位置となった。道路面からのプライバシーの確保と南側への開放性を両立させるため、建物は南側に大きく開き1.2mの袖壁を持つ門型形状とした。庇はテーパーを付け袖壁の見付と寸法を合わせることで周囲への威圧感の軽減を図るとともに日照のコントロールにも役立っている。駐車場と建物との間には両者を分ける境界として、クロチクとサツキからなる植栽帯を設け安全性を確保した。その植栽帯を突っ切る形で玄関まではまっすぐにアプローチが延びている。
LDKは1階にあり、庭にステージのように張り出したタイルデッキとつながっている。外壁に使用した木板と同じものを室内の仕上に使っていたり、サッシを枠の見えないように納めたりと、随所に室内外の連続性が感じられる工夫をすることで、開放感を生み出し、心地の良い空間となっている。タイルの壁で曖昧に仕切られたキッチンはセミオープンとなっており、リビングやダイニングからは手元の調理台やシンクを隠しつつ、無理なくコミュニケーションが取れるようにしている。キッチンの奥にある家事室に冷蔵庫が置かれており、扉を閉めれば隠せるようになっている。
和室は障子を開ければLDKと一体の空間となるが、閉めれば完全個室となるので客間としての利用が可能となる。ダイニングにいる人と無理なく視線が合うようにするため、和室の床を15㎝高くしている。玄関側の障子は引き込みとなっており、直接出入りできるようになっているのは、「お雛様や五月人形を飾ることができるくらい広い玄関がほしい」という要望に応えた結果である。全体のバランスを検討した結果、“大きな玄関”は諦めたが、だからと言って“お雛様や五月人形を飾りたい”という気持ちまでは諦める必要はなく、和室と兼ねることで実現させた。
その他1階にはトイレ、納戸、手洗いがあり、特に手洗いは玄関を入ってすぐのところにあるので、帰ってきて手を洗うことが習慣付いて教育上とても良いと評判だ。
2階は家族のプライベートスペースとなっている。主寝室には2つの窓の間にアクセントとして寄木パネルがはめ込まれている。その他、ウォークインクローゼットと壁掛けテレビ用の端子が備わっている。子ども部屋には床から天井までの大きな窓があり、1階のリビングの窓と位置を合わせることで南面の大胆な立面を形成している。外壁と同じ木板仕上のクローゼットを背中合わせにして2つの子ども部屋が隣接している。
洗面所の壁の仕上には外壁と同じサイディングとタイルが施されており、ベランダと繋がった半屋外的な空間となっている。閉鎖的になりがちな洗面所を開放感あふれる空間としたことで、すがすがしい気分で一日を始めることができる。
今回は求められる部屋の数と広さが決まっていたので、それらを予算内に納めるために、かなりシビアに面積効率を追求した平面構成となった。ほとんどプラン上の遊びがなく面白みに欠ける建物になるかと思われたが、思い切った予算配分と仕上げ材の選定、それぞれの空間の連続性を意識したプランニングにより、同じような家な立ち並ぶ住宅街の中で、シンプルでかつ控えめに個性を主張するまとまりのある建築が実現できた。
建築途中で子どもがひとり増えるという嬉しいハプニングもあったが、この家族であればきっとこの家をうまく使いこなして快適な生活を送ってくれるだろう。
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