施主の山下さんは金属の商社に勤務する課長で、ネコをこよなく愛する母親と一緒に住むという条件でスタートした。この住宅は約20年前に開発されたと聞く。古い住宅は平屋を南に向けた配置が多かったが、今となっては2階建てがかなり建て込んでしまい、南に向けたとしても圧迫感が残る。この敷地は幸いにして東側に暗渠の広い水路があり、しかも水路脇に樹木が多く茂っている。そこで建物を水路側に開放するプランを施主に提案したところ、考えてもみなかった意外なことだったようで大変喜んで頂いた。
施主はウィークデーはほとんど仕事の帰りに近所の居酒屋「てまり」で食事をとり、家では寝るだけの生活となる。土日には、居酒屋での仲間連中とまた酒を呑み交わすといった生活パターンである。一方、母親の方は数匹のネコの世話をしながら一日を過ごしている。この生活パターンが異なる二人の住人が、一カ所に住むわけである。とりあえず共有する箱の中に、各寝室を喧嘩しないよう一番距離のとれる対角線上に配置したのはこのためである。設計の打合せでは、よく意見の対立がみられたが、水路側に向けられた広間を二人とも気に入ってくれたようだ。やたらと反対方向に倒れた柱を不思議がっていたが、私はこのそっぽ向いた2本のラチス柱が二人の住人に重なって見えて、同じ屋根を支えているのかと思うと、ほくそ笑んでしまうのである。
資料請求にあたっての注意事項