東急東横線の学芸大学駅前商店街。ちょっとした道路の空いたスペースは、自転車か商店の商品で埋め尽くされ、かろうじて軽自動車が貨物運搬用に通れる程度の間をぬって人々が行き交う。こうしたひとやモノの距離感がこの町をにぎやかで活気のあるものにしている。そしてこのような周辺環の中、駅のホームと平行して位置する敷地にこの建物は建っている。
当初の計画では容積をフルに活用した5階建ての商業ビルを計画していたが、テナントが不足している時代にあるためテナントスペースは1・2階のみにし、3階に施主が自分たちのための住居をつくろうということになった。1・2階のテナントスペースは、あくまでこの建物を運営する資金源となるよう、できるだけ広い面積を重ね、街に対しては無表情なガラスのカーテンウォールがさらけだされたが、1階に入居した薬店はもう既に全面道路の3分の1を商品で占拠してしまっている。
この典型的な東京の駅前商店街というカオスの中で、いかに自分たちが安住のできる空白のスペースを確保するかが、われわれの最大のテーマとなった。3階より上のヴォリュームは、敷地前後の道路により斜線でカットされてもかなりのヴォリュームは残されていた。2層分はある吹抜けに、水回りや子供室等の最小限のヴォリュームをL字型に配置する。これによって、穏やかに外部と繋がるコートが発生する。このコートは半透明の被膜が架けられることによって、高さ4.3mのガラスで仕切られた LDと一体の空間として認知される。コートにはスノコのステップとエキスパンドメタルのステップを設け、L字型のヴォリュームで発生したテラスを抜けて多目的室から階段を降りてLDに通じる動線が、空間にアクティビティを与えている。比較的どこにいても内部と外部の空間が一体のヴォリュームとして感じ取れるようにした。
子供室のヴォリュームは、吹抜けとのコントラストを強くさせるためできるだけ低く抑えられている。しかも、コートは東側に開かれているが、この子供室のヴォリュームが適度に反対側のビルからプライバシーを保っている。またコートを覆う半透明の被膜は4本の支柱で支えられ、一定の間隔を保つことによって空間にリズムを与えるようにしている。駅のホームの喧噪や街のカオスと、われわれの目標は達成されたことになるのだが、その前にこの立地に住まいを移すことを決意した施主に敬意を表さねばならないと思った。
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