文筆に関わる仕事をしているOさん夫妻と娘さんのための住まいです。ご家族にとって「本を読むこと」は、日々の暮らしに溶け込んでいる、とても身近でとても大切な行為。そこで思い浮かんだのは、ひとつながりの空間の中に、思わず腰を下ろして本を開きたくなるような場所が点在する家です。
敷地は細い私道の突き当たりからさらに入った静かな場所にあります。切妻屋根の白い家+レンガタイルの下屋+パーゴラ(ぶどう棚)という外観の構成は、住居+図書室+中間領域という機能の構成そのものです。住居棟は1階にLDK、2階に個室3室というシンプルな構成ですが、ダイニング上部の吹き抜けによって各室が繋がり、家の中のどこに居ても家族の気配が感じられる空間構成となっています。
この家の基本骨格には伸びやかで開放的な空間が広がっていますが、そのまま素直にシンプルに設えてしまうと「思わず本を開きたくなるような場所」にはならないような気がしました。むしろ必要なのは篭(こも)れる場所。何となく思い描いたのはこんな感覚です。大木の根元に腰を下ろして寄りかかる時の感覚。薄暗い洞窟の中から光溢れる外の世界を眺める時の感覚。少し飛躍しますが、サンゴや海藻の陰に身を潜める魚の感覚。木の上に居心地のいい寝床(NEST)をつくる動物の感覚。
そんな感覚を持ちながら、庭との繋がり方について、天井やハシゴや家具の在り方について模索しました。そしてできたのは、三方を腰高の壁に囲われハシゴとキャットウォークが覆いかぶさるダイニング、三方の壁と凸凹の天井で囲われた少し暗めのリビング、壁一面の本棚を横目に緑溢れる庭を望む図書室、三方の外壁と上部のパーゴラによって囲われたテラス、ハシゴを登った先にあるキャットウォークの行き止まり等、様々な居心地を味わうことができる場所です。また、居心地は季節や時間、天気によっても様々に変化します。
春先、本を手に取ったOさんは草花の香りを楽しむために、まだ虫のいないテラスに腰を下ろすかもしれません。夏は濃い影を落とすリビングに、秋は紅葉した庭を望む図書室に、冬は暖かな陽が差し込むダイニングに、本を読む場所を移すのかもしれません。
そんな風な日常が、Oさん一家にとっての「心地のいい暮らし」なのではないかと考えました。
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