計画地は北アルプスの山麓に位置する。北東は安曇野平を見渡す事が出来、その先の山々の重なりが奥行きの深い風景を作り出している。反対に南西側は北アルプスが目前まで迫っており、日が暮れるのが早い場所でもある。敷地周辺は三方が田んぼと畑に面しており、残る一面は北西の前面道路である。この前面道路は地域の主要道路に位置づけられ意外に交通量の多い道である。
計画地の標高は約600mであり、夏は涼しく風通しの良い場所であるが、冬は積雪が多く足元から底冷えする地域でもある。
建築主である夫は個人でカスタムバイクの製造等を営んでおりバイク工場と自宅を設計してほしいと言うのが話しの始まりであった。
北アルプスの山麓が計画地である為、厳しい自然環境と4人の家族がどう向き合えるか、と言う事と住宅と工場の2つの用途、若夫婦ゾーン、母親ゾーンと工場ゾーンの3つのゾーンの関係をどのように構築するかを考えるのが、この設計の出発点であった。
最終案としては2つの用途は不可分の関係にするが棟を分ける事とし、行動行為に対して分節の度合いを強くしている。また3つのゾーンにおいてはそれぞれのゾーンからの視線が制御出来る様に配慮して気配が感じられる距離感で配置させている。この距離感(ゾーンの交わり)が設計において特に留意した点で居住棟1階のリビングを半層吹き抜けとし若夫婦ゾーンと母親ゾーンを緩やかに繋げている。また2階リビングからその吹き抜け側を望むと上部はカエル嫌いの妻の為の屋上テラス、下部は1階リビングの吹き抜け越しに座りながら外部も望む事が出来る様にしている。工場事務室が1階リビングと一体の空間と出来る様にしているのも、状況によって工場の応接・家族団らん・琴の演奏など変化できる空間を想定しゾーンの交わりを考えている。
環境に対しては、この地域で昔から伝わる本棟造り(大きな切妻屋根を架け妻側に出入り口を配置するシンプルな形状の民家)を意識してプランニンングを行い、外皮でコの字に囲まれた形状に行き着いた。この外皮は自然環境に一番さらされる部位なので、ある程度、耐久性の高い断熱材で裏打ちされたガルバニウム鋼板を使用し、熱特性を利用した乾式工法による通気層を設けている。また色を黒くする事でなるべく早く溶雪させる効果も期待している。日の短い地域性から南からの日差しはトップライト・ハイサイド窓で採光を得る事と盆地に射す日差しの反射を考慮している。特に冬場のこの反射光は雪面の反射によりかなりの効果があり内部は優しい光で包まれた。
資料請求にあたっての注意事項