愛媛県今治市内の住宅地に建つ、夫婦と子供2人のための住宅である。
敷地周辺は、少し歩けば田畑がいくつか混在している比較的のどかな住宅地であるが、敷地の南側前面道路の向かいは小学校ということもあり、絶えず人の気配が感じられた。その他三方は住宅や長屋によって囲まれている。敷地は狭小と言うほど窮屈ではなく、周辺の住宅も敷地の周りに密集して建っているわけではないが、開放的な抜けが限定されてくる場所であった。
建主はこの地域で生まれ育ったため、近隣との昔からのつきあいの中でも適度な物理的、心理的距離感を確保することを望まれた。その一方で、光と風が心地よく入る空間であることも求められた。
周辺の住宅に対してどのような距離感による生活が可能かをテーマとして、まず良好な環境を得るために敷地の南北に庭となるスペースをつくり、その間に挟まれるかたちでLDKを配置した。この南北の庭は、外壁を延長してゆるやかに囲い込むことで、内部空間に近い外部空間として、LDKの広がりを助長する結果となっている。1階の水回りは、北側に配置することで北庭面積が削られたが、水回りをまとめて半階下げることによって、2階床との間に隙間をつくりだし、開口部として北側からの柔らかな光を採り入れている。
また、外壁は視線の抜けと日照調整を意識しながら開口し、各室へ光と風を送り込むと同時に、適度な内部空間の気配を外部に感じさせることで、街並みに対しての圧迫感や閉塞感を緩和した佇まいとなっている。
LDK以外の居室に対しても同様に、南北両方の庭に接するように配置計画を行うことで、風の通り道をつくりだし、さらに一日を通して安定した光で満たされる空間となった。
今回の計画では、南北の庭が街と住宅との中間領域として、また周辺の住宅との緩衝空間として、柔らかくお互いを分節できたのではと考えている。