郊外の比較的ゆったりとした住宅地に建つ夫婦と子供1人のための家である。設計を始めた当初夫婦2人であったクライアントからはLDKのほかに暫定的に4つの部屋をつくりたいという要望があったが明確な使われ方が想定されているわけではなく、今後の家族構成の変化などによって更新されていくことが予想された。この空ろな状態に対して建築により無理に明確な輪郭を与えるのではなく、そのまま建築化してみようと思った。
敷地の広さには余裕があり、南側には畑がある。住戸と屋内駐車スペースを切り離すことでその間にL字の庭をつくりだし、隣地の畑と半ば連続するような外部空間をもうけている。住戸の 1 階は庭と一体になるようなLDK、2階には条件の4つの部屋を配置した。
2階の部屋間の壁はガラスで囲われた 410mm 幅の空隙(以下「空壁」)である。「空壁」は屋根と床を貫通しており、トップライトガラスがあるので外気や雨こそ遮るが空が拡大して建物に入り込んでくる。1階ではこの「空壁」を通して空を望めるほか、2階の人の気配が伝わってくる。この「空壁」という壁でも吹抜けでもないような不思議な存在が、光の加減によってこの建築に平面的にも断面的にも様々な距離感生み出している。
「空壁」の中を透過・反射した光が季節・時刻ごとに移ろいを見せる。天候によっても様々に情景を変える。かと思えば、遊びまわる子供の姿、夕食の準備の風景などが「空壁」から垣間見えたり、思わぬところに庭の緑が映りこんだりする。
建物は建った瞬間に様々な関係性をフリーズさせてしまう。それに対しもっと「やわらかい」建築をつくりたかった。「空壁」は突き詰めれば単なる間仕切り壁でしかないが、そこに現れる光や映し出される生活が建物に魅惑的な風景を刻む。