「kH:3」は自然発生的に生成されたような街並みの中で、不整形な道路と電線が蜘蛛の巣のように張りめぐらされた一角に位置しています。南西の角地に位置する敷地に対して2方向に接する接道は、その幅員と比較すると大変交通量が多く、下町特有の良好な庶民性と同時に混沌としたその凶暴性も持ち合わせた様相も呈しています。当然の事ながら、このようなコンテクストを生成する街並みの中での住環境の在り方を手がかりに、この建築の計画は進められました。まず、最初に解決すべき問題と捉えたのは、西側道路の交通量の多さからくる騒音と西日を遮断する事でした。その為、遮音壁で南・西側の外壁をクロ-ズしてしまう必要があると考えました。次に、隣家が接近している東側に中庭として機能する空地を設ける事で、遮断された南・西面からの採光を補う事を考えました。そして、この2つの要素が建築全体の構成を支配する核となりました。東側に設けられた中庭は光を充満させるだけではなく、高木を植え、子供の水遊び場としても機能する水盤を設けて、外部から閉ざされた住空間の中でも自然を感じさせる構成としています。隣家との界壁はスチ-ル製の有孔折半を使用し、各諸室へ光を送り込む反射板としても機能させています。この界壁にはアイビ-が植えられ、近い将来アイビ-ウォ-ルへと変化する事が想定されています。遮音壁の役割を担うファサ-ドは完全に閉じた表現とせず、上層部と下層部の間に横長のスリットを設け、このスリットを通して通りと中庭が視線の交差を生む事で、街並みとの関連性が意識できるように意図されています。前述のようなプロセスで与えられた敷地のコンテクストを分析し、主要な要素を再編集した結果として、「遮音壁」「光のスリット」「居住空間」「光のヴォイド」「アイビ-ウォ-ル」からなる5種類のエレメントをレイヤ-状に積層したようなボリュ-ム構成の建築となりました。そして、一見街並みに背を向けたかのような様相を呈した佇まいは、(コンテクストを注意深く読み解いた結果として)理路整然と並べられた住空間がそれと相反した性格を持つ混沌とした街並みの中に挿入される事で、それぞれのアイディンティティ-を際立たせる事になりました。
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