以下は、「新建築住宅特集2022年5月号」掲載テキストより抜粋です
中心を自然が抜ける家
建主からの要望は、明るく開放的な平屋、トレーニングができる広間、コンクリート造、そして眺めのよい土地を一緒に探してほしいなどであった。敷地は海を望むことができる高台の頂上付近に位置する。
海へ続く北斜面に沿うように立派な枝ぶりの樹木が生息しており、その木々の間にぽかりと開いた空地の一角にある。平坦な部分を一切もたないこの敷地は、南北で10mほどの高低差があった。ここで建築をつくることができれば、建主にとってかけがいのない場所性を有していると感じた。
住宅を斜面から切り離し浮遊させることで、海から斜めに伸びてくる地面がそのまま通り抜ける場所が生まれるのではないか。遠くの景色だけでなく、目の前の樹木と共に生きていることが実感できる住環境を築けるのではないかと考えた。柱とブレースによって宙に掲げられた11m角の高床住宅を提案した。
全体構成は上階に居住領域を、下階に中間領域を配し、2層の中心を3m角の孔が貫いている。下階は、ひと回り大きく跳ね出した上部を4本の柱とブレースが支えている。中心の孔から光が射し、雨が落ち、風が通り抜ける軒下空間とした。上階は見通せない一室空間とし、生活の変化に応じ、居場所が伸縮できるよう引戸を設けた。中心の孔は建具の開閉で屋外まで生活が広がるよう有孔鋼板を敷き、空中庭として内外の連続感をつくった。
無限に広がる自然の中を漂う一室空間を柱とブレースが突き抜けることで居場所となり、中心を余白が抜けることでこの環境と共に呼吸していく。建て主との緊張感ある協働により実現した住宅である。
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